紹介
新婚8か月の間、私の心は別の男性に捧げられていた――私の「救世主」伊藤大樹に。藤原和也は政治的な取り決めに過ぎず、仕方なく向き合わなければならないマフィアのボスでしかないと思っていた。
運命の夜、すべてが覆された。伊藤大樹こそが父の命を奪った仇敵で、病院で本当に私を救ってくれたのは藤原和也だったのだ。
5年間、私が無視し続けてきたこの男性――裏社会の頂点に君臨する最も危険な男が、高校時代から変わらず私を愛し続けていたのだった。私を妻にするために実の父と激しく対立し、私への信頼を示すためなら自らの命すら天秤にかける覚悟でいた。
それなのに私は、仇敵に愛を捧げ、真の愛を注いでくれた人には氷のような態度を取り続けていた。
藤原和也があの深淵のような黒い瞳で私を見つめ、「5年間、君が俺を見てくれる日をずっと待っていた」と告白した瞬間、私の心は粉々に砕け散った。
今になって彼の元へ戻ろうとしても、もう手遅れなのだろうか?
チャプター 1
静まり返ったリビングに、スマートフォンの画面が唐突に光り、その振動音が無遠慮に響き渡った。
指が、ぴたりと凍りついた。ほんの数秒前まで、大理石のコーヒーテーブルを無心に叩いていた指先が、今はまるで電撃に打たれたかのように震えている。
伊藤大樹からのメッセージ。
『最愛の凜音へ。今夜が絶好の機会だ。和也は明日、交渉のためにイタリアへ出発する。あの交易ルートを手に入れれば、俺たちの計画を実行できる。もうすぐ、君は俺の腕の中に戻ってくるんだ』
深呼吸をすると、ずしりと重い何かが胸にのしかかるのを感じた。何億もするこの豪邸に、たった一人。周りの豪奢なすべてが、急に私を嘲笑っているように思えた。私は街で最も羨望を集める女、マフィアのボスである藤原和也の妻。けれどその実態は、救いを待つ囚人のようなものだった。
「……これで、最後」
私は自分に言い聞かせるように、そう呟いた。
結婚して八ヶ月。苦痛に満ちた八ヶ月。和也はいつも、まるで私が本当に彼の最愛の妻であるかのように、優しい眼差しで私を見つめる。
でも、彼は知らない。私の心がずっと昔に、伊藤大樹のものだったことを。
五年前、もし大樹がいなければ、母と私はあの凄惨な一家惨殺事件で死んでいたはずだ……。ただ時々、考えてしまう。あの夜、どうして彼はあんなに早く病院に駆けつけられたのだろう、と。まるで、すべてを知っていたかのように……。
その時、玄関で鍵が回る音が家中に響いた。
火傷でもしたかのように飛び上がり、スマートフォンを落としそうになる。和也が、帰ってきた。
「こんな時間まで起きていたのか?」
ドアを開けた彼の、驚いたような視線が私の顔に注がれる。
疲れているはずなのに、和也は息をのむほど魅力的だった。長い一日のせいでブラウンの髪は少し乱れ、シルクのネクタイを片手で緩めながら入ってくる。その仕草には無造作な男の色気があって、私の心臓が小さく跳ねた。シャープな顎のラインには無精髭がうっすらと影を落とし、高価なスーツとは対照的な荒々しさを与えている。
その深い、黒に近い瞳が私を捉えた瞬間、心臓が肋骨を激しく打ちつけた。彼に対する自分の体の反応が憎い。ただ見つめられるだけで肌が熱を帯び、一歩近づくだけで呼吸が浅くなる。
乾いた喉から、なんとか普段通りの声を絞り出した。
「あなたを待ってから寝ようと思って。明日のイタリア出張の準備は、すべて順調?」
和也は黒いブリーフケースを置くと、こめかみを揉んだ。その動きと、彼がもう片方の手に持っている繊細な小箱に、私は気づいた。
「まあ、だいたいな。向こうの古狐どもは一筋縄ではいかん。交渉は一週間ほどかかるかもしれん」彼は、私に向かって歩いてくる。「明日出発する前に、これを渡しておきたくてな」
彼が差し出した小箱を、私は胃がねじれるような思いで見つめた。
「和也、私は――」
「頼む」その一言が、私の抗議を封じ込めた。「見てくれるだけでいい」
私はためらった。両手は所在なげに体の脇に垂れ下がっている。彼から贈り物を受け取るのは間違っている。特に、大樹からのメッセージがまだスマートフォンの中で燃えているような今夜は。けれど、和也の黒い瞳には、どこか弱々しい、懇願するような色が浮かんでいた。
「できない……」そう言いかけたけれど、彼の表情がわずかに曇るのを見て、言葉が喉に詰まった。
「箱だけだ、凜音。持っていなくてもいい」
理性に反して、私はその箱を受け取った。まだ微かに震える指で蓋を開けると、中にはエメラルドのネックレスが横たわり、その宝石が照明の下で妖しいまでにきらめいていた。
息をするのも忘れるほどだった。精巧で――そして、明らかに値段がつけられないほど高価なものだった。
「もしこのネックレスが、藤原家に四代にわたって受け継がれてきたもので、君に渡すためだけに金庫からこっそり持ち出してきたと言ったら……少しは見てくれるか?」
和也の声は羽のように優しく、その瞳に宿る期待が、私の胸に鋭い痛みを走らせた。
指先がエメラルドの冷たい表面に触れる。けれど、言葉が見つからなかった。罪悪感が潮のように押し寄せてくる。彼はこんなにも私によくしてくれるのに、私は彼を裏切ろうとしている。
和也は数秒待ってから、そっと瞼を伏せた。
「いいんだ。それはここで待っている……俺と同じようにな」
その瞬間、彼の声に滲む落胆の色に、すべてを告白してしまいたくなる衝動に駆られた。けれど、スマートフォンの中では大樹からのメッセージが返信を待っている……。
私は無理やり視線を逸らし、和也が肩を揉んでいるのに気づいた。
「疲れているのね……」立ち上がりながら、まだ震える声で言った。「熱いお風呂を用意するわ。背中の怪我、また痛むんでしょう?」
和也の黒い瞳が、何かを読み取ろうとするかのように、長い間私の顔を探っていた。その奥で、言葉にならない感情が揺らめいている。ゆっくりと、ほとんど気づかないほどの笑みが彼の口元に浮かんだ。
「気づいてくれたのか……」彼は静かに、ほとんど囁くような声で言った。「ありがとう」
その言い方。何かずっと深いものを抑え込んでいるかのような、慎重な抑制の効いた声が、私の胸を罪悪感で締め付けた。
私は、あからさますぎただろうか?
「……姿勢が、少しおかしいと思っただけよ」私は自分の失態に苛立ちながら、うつむいた。「あなたの妻を長くやっていると、気づくこともあるわ」
和也は私について主寝室のバスルームへと向かってくる。その間ずっと、彼の視線が背中に突き刺さるのを感じて、背中が焼けつくようだった。
バスルームの戸口で、彼は立ち止まり、シャツのボタンを外し始めた。その動きはゆっくりで、意図的だった。
「凜音、俺が君に触れてからどれくらい経つか知ってるか?」
息が詰まり、私は反射的に後ずさった。
「和也、私たちは約束したはず……」
「わかってる」彼は深く息を吸い込んだ。照明の下で、日に焼けた胸が上下する。「ただ、俺の妻が、いつになったら本当に俺のものになるのかと考えていた。ただ俺の名前を名乗るだけじゃなく」
彼の言葉が、針のように私の心を突き刺した。私は慌てて水温を調節するために蛇口に向き直り、どもりながら言った。
「お湯、ちょうどいいわ。私……タオルを取ってくる」
「凜音」
戸口で立ち止まる。振り返る勇気はなかった。
「ありがとう」彼の声は優しかった。「何があろうと、俺の世話を焼いてくれることに感謝する」
私はリネンクローゼットに駆け込み、ふわふわの白いタオルを掴むとバスルームに戻った。和也はすでに湯船に浸かっており、温かいお湯が彼の胸まで達している。湯気が、鏡を曇らせ始めていた。
「はい」
私は彼を直視しないように気をつけながら、湯船の隣にある大理石のカウンターにタオルを置いた。
「震えているぞ」
和也は、心配そうに私の顔を見つめながら言った。
「寒いだけよ」私は自分を抱きしめるように腕を組んだ。「何か飲み物でも淹れてくるわ。リラックスした方がいい」
「そんなことしなくていい――」
「私がしたいの」言葉が早口に出すぎた。「だから……ゆっくりして。お湯に浸かれば、背中も楽になるから」
彼が何か言う前に、私はバスルームから逃げ出した。
外の壁に寄りかかり、目を固く閉じる。和也の言葉が耳の中で反響し、一方でスマートフォンの中では大樹のメッセージが待っている。
水の跳ねる音が聞こえてきた。彼が実際に湯船に浸かった今、少なくとも十五分は時間があるはずだ。
大樹のメッセージ……交易ルート……これが最後のチャンス。
私は深呼吸をして、和也の書斎へと向かった。
書斎は、厚いカーテンの隙間から差し込む街の灯りだけで薄暗かった。メインの照明をつける勇気はない。危険すぎる。代わりに、スマートフォンを取り出してライトを起動し、光が窓に向かわないよう低く構えた。
「どこかにあるはず……」
私は自分に言い聞かせながら、震える指で机の上の書類を探った。
ファイルフォルダーを次から次へとめくるが、どれも必要なものではない。額から汗が流れ落ち、手のひらは湿って物を掴むのもやっとだった。スマートフォンの光が、革張りの本や散ばった書類に不気味な影を落とす。
ついに、スマートフォンの弱い光の中に、背表紙に「ルート」と記された分厚い黒い台帳を見つけた。
これだ! 大樹が必要としている交易ルートの情報!
台帳を開こうとした、まさにその時、バスルームから和也の声が突然響いた。
「凜音? 大丈夫か? ずいぶん長いが」
背筋に冷たいものが走り、台帳が手から滑り落ちそうになった。
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新谷グループの全受賞特許の名義人であり、
さらに、伝説の「国家並みの資産を持つ」と噂される周防家の、本当の長女だということを。
大手財閥の若き当主は、封印していた婚約書を取り出し、薄く唇を吊り上げる。
「なるほど。俺の本当の婚約者は、君だったわけか」
家族の縁を切った日、兄たちはすべてを失った
公平を期すという名目のもと、兄たちは彼女からリソースを根こそぎ奪い、その尊厳を踏みにじってまで、運転手の娘を支えた。
彼女は兄たちのためにすべてを捧げたというのに、家を追い出され、無残に死んだ。
生まれ変わった今、彼女は人助けの精神などかなぐり捨てた。許さない、和解しない。あなたたちはあなたたちで固まっていればいい。私は一人、輝くだけ。
兄たちは皆、彼女がただ意地を張っているだけだと思っていた。三日もすれば泣きついて戻ってくるだろうと高を括っていたのだ。
だが三日経ち、また三日経っても彼女は戻らない。兄たちは次第に焦り始めた。
長兄:「なぜ最近、こんなに体調が悪いんだ?」――彼女がもう滋養強壮剤を届けてくれないからだ。
次兄:「会社のファイアウォールは、なぜこうも問題ばかり起こす?」――彼女がメンテナンスに来なくなったからだ。
三兄:「新薬の開発が遅々として進まないのはなぜだ?」――彼女が治験をしなくなったからだ。
四兄:「どうしてこんなにつまらない脚本しか上がってこない?」――彼女がもう執筆しないからだ。
五兄:「この義肢は、なぜこんなに出来が悪いんだ?」――彼女が製作をやめたからだ。
六兄:「なぜチームが負けた?」――彼女が脱退したからだ。
兄たちは地に膝をついて許しを請うた。「戻ってきてくれ。俺たちこそが、血を分けた本当の家族じゃないか」
彼女は絶縁状を兄たちの顔に叩きつけ、冷ややかに笑った。
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