紹介
彼が言うには、私の「育成プロジェクト」は『金の鳥籠』であり、チームを搾取して個人の知的財産を盗むための罠だ、ということらしい。
だけど、事実はどう?
私はあのプロジェクトに、すべて自分のポケットマネーから資金を出していたのよ。
選ばれた候補者には、見返りなしの準備金五十万円が支給され、さらに最高ランクの学費全額返済サポートまでついてくる。100%自由参加で、辞退してもペナルティは一切ない。
それなのにネット民どもが、私のことを「労働者の創造性を独占する有害な資本家」だと決めつけたから、私はその開発者に「お望みのもの」をそっくりそのまま与えてやることにしたの。会社全体に、こんなメモを一斉送信してやった。
「資本家による搾取から皆さんの創造の自由を守るため、五十万円の育成基金は直ちに、かつ永久に廃止します」
「これに代わる措置として、全従業員への月々の教育手当は、基礎的なプログラミング講座に対する千五百円の払い戻しのみとします」
メモが配信された瞬間、その五十万円をあてにして学費を返済しようとしていた人や、人生を変えようとしていた従業員たちは完全にパニックに陥った。
今、彼らは私のガラス張りのオフィスのすぐ外に群がっているわ。目を真っ赤に腫らし、どうかプログラムを復活させてほしいと、必死に泣きついてきているところよ。
チャプター 1
うちの主任開発者の一人が、ネット上で私を吊し上げた。
あいつは私の「インキュベーション・プロジェクト」は金ピカの檻――チームを搾取し、個人の知的財産を奪うための罠だ、と言い張ったのだ。
真実は?
資金は私の自腹だ。
選ばれた候補者には、ひもなしの種銭として五百万円。さらに帝都大学の学費を全額補助。参加は完全任意で、辞退してもペナルティは一切なし。
それなのにネットは、私を創造性を独占する有害な資本家扱いだ。なら、あいつが望んだ通りにしてやった。全社向けメモを叩きつけた。
「資本家による搾取から皆さんの創作の自由を守るため、五百万円のインキュベーション基金、および学費全額補助制度は本日付で即時、恒久的に廃止します」
「代替として、全社員の月次教育手当は、基礎的なコーディング講座の受講料に限り、一律千五百円を支給します」
メモが投下された瞬間、あの五百万円を当てにして学費ローンを返したり人生を変えたりしようとしていた社員たちは、完全にブチ切れた。
いま、私のガラス張りの執務室のドアの外に群がっている。目を真っ赤にして、制度を戻してくれと泣きついて。
「五百万円。ひもなしの種銭。加えて帝都大学の上級課程の学費全額補助」
私は会議室の前に立ち、プレゼンのリモコンをクリックした。画面は、前例のない待遇のスライドで止まっている。
静まり返った。
そして次の瞬間、部屋が爆発した。
「マジかよ、本当に五百万!?」
「帝都大学の学費タダ!? 先週まさに支払いで胃が痛かったんだけど!」
主任UIデザイナーの高橋由美が、同僚たちと興奮した目配せを交わしている。
私は手を上げて静まるよう促した。
たちまち、全員の視線が私に突き刺さる。
「だが、投資には境界がある」私はポインターを押した。スライドが切り替わり、白黒の条項がびっしりと並ぶページが表示される。
「これが『IPガードレール』だ。簡単に説明しよう。第一に、この資金を使って開発したプロジェクトの基盤コードは、秘密保持契約の対象になる。第二に、プロジェクトを商用化する場合、株式会社ミライメディアは独占配信に関する優先交渉権と、次回資金調達時における優先出資のオプションを持つ」
「これは、将来の著作権トラブルを防ぐための防壁だ。特に大手配信プラットフォームと組む際、あちらのデューデリジェンスで引っかかると厄介なことになる。会社を守り、最終的には君たちの努力をも守るためだ。――質問は?」
前列に漂っていた陶酔は、目に見えて冷めた。低いざわめきが生まれ、皆が頭の中で損得勘定を始める。正常な反応だ。大人の世界は、結局取引でできている。
そのとき、わざとらしい含み笑いが囁きを切り裂いた。
「あの、悪いけどさ。言葉遊びしてるだけじゃない?」
生田拓也だった。中核のバックエンド開発者で、登録者三十万人の兼業テック動画投稿者でもある。
「どういう意味?」私は真っ直ぐ拓也を見た。
拓也は立ち上がった。「夢を支援してるように聞こえるけど、ここの文言をよく見ろよ。優先交渉権? つまりさ、この五百万を受け取ったら、将来一千万の価値になるかもしれない俺らの独立IPが、会社にがっちり縛られるってことだろ。秘密保持契約? いつでも差し止め食らわせて、『お前らのコードはウチの権利を侵害してる』って言えるってことじゃん」
両手を広げ、挑発的な口調で煽る。「インキュベーションじゃない。小銭で合法的に知財を強奪する仕組みだろ。そうだよな、みんな?」
息を呑む音が部屋の隅々から返ってきた。
由美の目から光が消えた。若いエンジニアが何人か、目に見えて迷ってから、同調するように頷き始める。拓也は見事に、その場にいる全員のいちばん過敏な神経を逆撫でしてみせた。――現場で汗を流すコーダー対、自分たちの創造性を吸い上げる吸血企業、という対立構造を植え付けるために。
「合法的に強奪?」私は小さく笑った。
「生田さん、『オプトイン』って概念を理解してないのか?」
声が冷たくなる。「私は誰にも強制していない。罠だと思うなら、署名しなければいい。この五百万円を受け取らなければ、基本給を減らす人間もいない。昇進を塞ぐ人間もいない」
「だが、自分がルールに従いたくないからって、他人が人生を変えられる本物の機会を『搾取』だと貶める権利があるわけじゃない。自由が欲しいなら勝手に持っていろ。だがそれを武器にして、他の全員の未来を潰すな」
拓也の顔に浮かんでいた薄笑いが、一瞬凍りついた。私が餌に食いついて「搾取」だの何だのと弁明すると思っていたのだろう。
だが、あいつの頭の回転は速かった。すぐさま、さらに上の「正義のポジション」へと逃げ込み、道徳を振りかざし始める。
「俺はチームの公平さのために戦ってるだけだよ。秘密保持契約に署名した人が五百万と帝都大学のリソースを手に入れたら、参加しない選択をした俺らは、得られるはずの利益を失う被害者になるだろ? 同僚がでかい金を渡されていくのを見ながら、どうやって平穏に働けっていうんだよ」
その自己愛と権利意識に、私は呆れるのを通り越して少し面白くすらなった。
制限もリスク分担も拒むくせに、いざ自分の懐に金が入らないとなると、まるで自分の正当な財産を奪われたかのように騒ぐ。
「安心して働きたい? 簡単だ。応募して、選ばれれば、お前も五百万円を持って帰れる」
これ以上言い争う隙を与えず、私は資料の束を掴んで席を立った。
「応募ポータルの締切は今日の午後六時きっかりだ。時間が来れば、アクセスは完全にシャットアウトされる。以上、解散」
私はまっすぐ自分のオフィスへ戻った。
境界のない善意は、契約の精神を買えない。ただ、際限のない恩知らずの寄生虫を育てるだけだ。
これで終わったと思った。
三十分後、ドアがノックされた。
拓也がドアを押し開けて入ってきた。目は赤く、途方もない重圧と被害者意識を背負った人間の顔をしている。
「社長」拓也はため息をつき、わざと脆さをまとわせた声音で言った。「さっきの会議、ちょっと言い方きつかった。悪かったよ。根に持たないでくれ」」
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三兄:「新薬の開発が遅々として進まないのはなぜだ?」――彼女が治験をしなくなったからだ。
四兄:「どうしてこんなにつまらない脚本しか上がってこない?」――彼女がもう執筆しないからだ。
五兄:「この義肢は、なぜこんなに出来が悪いんだ?」――彼女が製作をやめたからだ。
六兄:「なぜチームが負けた?」――彼女が脱退したからだ。
兄たちは地に膝をついて許しを請うた。「戻ってきてくれ。俺たちこそが、血を分けた本当の家族じゃないか」
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「車が壁にぶつかってから、ようやくハンドルを切ることを覚えたのね。株が上がってから、ようやく買うことを覚え、罪を犯して判決が下ってから、ようやく悔い改めることを覚えた。残念だけど、私は――許さない!」
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だが、待てど暮らせど笑い話は聞こえてこない。
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