紹介
かつて、私は瀕死の娘を救うため、吹雪の中を這いずり回り、彼の「本質を宿す血」を求めて懇願した。
だが、彼から返ってきたのは、私の手を踏みにじるブーツと、冷酷な嘲笑だけだった。
「夢を見るな、この恥知らずな売女め」
彼は私を銀の拷問台に縛り付け、私が「不貞」を働いたという偽造ビデオを無理やり見せた。
彼にとって、私は汚れた「野良犬」にすぎず、私にとって彼は、命であり、魂であり、そして私を苛む拷問者だった。
最後、彼は私に唾を吐きかけた。
「男に抱かれるのがそんなに好きなら、群れの男どもに好きなだけ抱かれるといい」
そうして、彼は私を地下のオークションに売り払ったのだ。
あの夜、私の世界は崩壊した。
娘は狂暴な狼の群れが蠢く穴に投げ落とされ、私はゴミのように捨てられた。
しかし、ようやくその地獄から逃げ出した時、私の中に彼への愛など残っていなかった。欲しかったのはただ一つ、復讐だ。
だが皮肉なことに、私が姿を消した瞬間から、かつて私の首を踏みつけたあの男は狂い始めた。世界中を血眼になって探し回り、私を追い求めるようになったのだ。
「夕晴、戻ってきてくれ」
血走った目で、執着に狂った彼は懇願した。
私は、空っぽになった冷たい心で彼を見つめた。
「アルファ、もう遅すぎるわ。私は、あなたが私たちの娘を狼の穴に放り投げたあの日、死んだのよ」
チャプター 1
雪はもう三日三晩、絶え間なく降り続いていた。橘家のアルファの屋敷の外、青石畳の道は分厚い氷に覆われている。
杉山夕晴は門前に、すでに十時間も跪かされていた。
自己治癒を持つ人狼であっても、この極寒には耐えきれない。
膝はとうに感覚を失い、皮膚と氷が凍りついて貼りついている。わずかに身じろぎするだけで、胸を引き裂かれるような激痛が走った。
意識の底で、灰銀の狼魂――幽影が苦しげに唸る。
『橘陸斗の節穴め! あいつは杉山雨音って毒婦の言うことしか信じやしない。あの女、嘘の腐臭まみれだってのに、宝みたいに抱え込んでやがる!』
杉山夕晴は紫に変わった下唇を噛み、鉄臭い血の味を舌に感じた。
幽影に同調して罵る力すら、もう残っていない。
やがて門の内側から、エンジンの轟きが響いた。
黒いオフロード車が門前で停まり、ドアが開く。黒い軍靴に包まれた長い脚が、雪の上へ降り立った。
橘陸斗が、見下ろすように彼女の前へ立つ。
黒のコートは隙なく仕立てられ、輪郭は深く鋭い。高い眉骨の下、最上位アルファの威圧が無言のまま辺りを支配していた。
杉山夕晴は必死に顔を上げ、掠れた声で縋る。
「陸斗、お願い……星ちゃんを助けて……! 狼魂枯渇症なの。あなたの精血しか、あの子を救えないの……!」
「救う? その雑種を?」
橘陸斗は足を上げ、軍靴で容赦なく彼女の手の甲を踏みつけた。
「寝言は寝て言え」
杉山夕晴は痛みに震えながらも、涙だけはこぼさなかった。
橘陸斗は腰を屈めると、大きな手で彼女の髪を乱暴に掴んだ。そのままごみ袋でも引きずるように、ずるずると屋敷の中へ引きずっていく。
ざらついた砂利が服を裂き、肌を切り、血の跡が点々と残る。
痛みで叫ぶこともできず、喉の奥から途切れ途切れの呻きが漏れた。
橘陸斗は暗い扉を押し開け、急な階段を下っていく。
地下懲戒室。
年じゅう陽の差さぬその空間には、壁一面に刑具が吊られ、中央には鈍い光を放つ刑架が据えられていた。
純銀製。
人狼にとって銀は猛毒だ。肉だけではない。魂そのものを灼く。
橘陸斗は腕を振り、杉山夕晴を刑架へ叩きつけた。
「ぁあ――ッ!」
背中が銀に触れた瞬間、じゅうっ、と肉の焼ける音が弾ける。
杉山夕晴は甲高い悲鳴を上げ、本能のまま激しく身を捩った。
だが橘陸斗は無表情のまま太い銀鎖を引き寄せ、彼女の悲鳴を聞き流しながら四肢を刑架へ固定する。
黒革の手袋をゆっくり外し、脇の鉄机へ放り投げた。
「痛いか?」
口元に残忍な笑みを刻み、橘陸斗が低く囁く。
「夕晴。お前は雨音を狂狼症に追い込んだ。あいつは昼も夜も苦しみ続けてる。お前の痛みなんか、その足元にも及ばない」
「陸斗……あなたが私をどうしようと構わない……」
杉山夕晴は息を繋ぐのもやっとのまま、必死に言葉を絞り出す。
「でも星ちゃんは……三か月ももたない……! お願い……私の血を抜いてもいい、命だってあげる……だから、精血を少しだけ……」
橘陸斗はぞっとするほど高らかに笑った。
「俺の娘だと? てめえ、外で何をしてきたか、俺が知らないとでも思ったか」
彼はコートのポケットからスマホを取り出し、動画を再生すると、その画面を彼女の目の前へ突きつけた。
映っていたのは、薄暗く淫靡な地下のパーティーだった。
画面の中心では、裸の女が複数の雄の人狼と絡み合っている。
人の姿を保った大男もいれば、半獣化して狼耳と尾を晒した者もいた。
女は媚びるような表情を浮かべ、耳障りな嬌声を漏らしながら、男たちの好き放題に身を任せている。
その顔が、明滅するネオンの下ではっきり映る。
杉山夕晴の顔だった。
「……違う……私じゃない……」
杉山夕晴の瞳孔がきゅっと縮む。
「偽物よ! 陸斗、これは雨音が捏造した――」
「黙れ!」
乾いた音が地下室に響いた。橘陸斗の平手が、容赦なく彼女の頬を打ち抜く。
「昔、お前の身体から他の雄の匂いも嗅いだ。まだ言い逃れする気か」
凄まじい力で頬を打たれ、杉山夕晴の顔は横へ弾かれた。頬は瞬く間に赤黒く腫れ上がる。
「今さらまだ雨音に泥を塗るつもりか!」
橘陸斗の胸が荒く上下し、アルファの凶暴な気配が懲戒室に渦巻いた。
「誰にでも股を開く下種が。どこの野郎の種かも分からない餓鬼を孕んでおいて、俺に精血を寄越せだと? ふざけるな!」
杉山夕晴の耳にはきいんという耳鳴りが響き、口の中は血の味で満ちていた。
絶望の中、ただ目の前の男を見上げる。
彼は彼女の運命の番だった。月の女神の祝福のもと、魂で結ばれた唯一の相手。
かつては、誰よりも深く愛し合っていた。
だが杉山雨音が現れてから、すべてが狂った。あの暗黒の森で自分を救ったのは杉山夕晴ではないと疑い始め、あの動画のせいで、彼女の貞節までも疑うようになった。
二人の子ですら、雑種呼ばわり。
五年――。
群れから追われ、星ちゃんとともにはぐれ狼に落とされ、他の人狼たちから散々に踏みにじられてきた。
その一方で、杉山雨音は橘の群れで最も尊い座に収まっている。
橘陸斗は二歩退き、眼差しを毒のように細めた。
「そんなに発情が好きで、男どもに可愛がられるのが好きなんだろう? なら今日は、望み通りにしてやる」
彼が指を鳴らす。
横手の鉄扉が開き、四人の屈強な人狼が入ってきた。
「アルファ」
四人は一斉に頭を垂れた。
橘陸斗は杉山夕晴を顎で示し、鼻で嗤う。
「くれてやる。息がある程度なら好きにしろ。狼の姿が好みなんだろう? 変じて、たっぷり満足させてやれ」
言い放ったその瞬間、なぜか胸の奥がきり、と痛んだ。何かが本能的に拒んだような違和感。だが橘陸斗は、その感覚を即座に押し潰す。
「橘陸斗! 正気なの!? 私はあなたの運命の番よ!」
杉山夕晴は鎖の限界まで身を捩り、必死に叫んだ。
四人の人狼の目に、いやらしい光が宿る。
ルナ。
本来なら、下位の人狼が顔を見ることさえ難しい高嶺の存在だ。アルファに寵愛されていないとはいえ、その顔立ちと肢体は、底辺の人狼たちにとって夢に見るしかない上物だった。
ごき、ごきっ、と骨の軋む音。
二人が狼形へと変じ、ざらついた舌で唇を舐め、粘つく涎を垂らした。
刑架へにじり寄り、黒い毛に覆われた大きな手が、ぼろぼろの襟元を掴む。
びりっ、と布が裂けた。
白い肌と豊かな胸元、しなやかな肢体が、冷えた空気にむき出しになる。
「いや……! 来ないで! 触らないで!」
杉山夕晴は悲鳴を上げた。意識の底で幽影も絶望的な叫びを上げる。だが銀鎖に縛られた狼魂には、どうすることもできない。
もう一人の半獣化した男は、待ちきれないとばかりに腰紐へ手をかけ、獲物に飛びかかるように杉山夕晴へ襲いかかった。
その瞬間――。
地下室を揺るがす、凄絶な狼の咆哮。
狂暴な威圧が衝撃波となり、刑架を囲んでいた四人の人狼をまとめて吹き飛ばした。
橘陸斗が先頭の灰狼の腹を蹴り抜く。
巨体はそのまま鉄扉へ叩きつけられ、がんっ、と重い音を立てた。残りの三人は恐怖に喉を鳴らし、その場へ這いつくばって震え上がる。顔を上げることすらできない。
橘陸斗の胸は激しく上下していた。氷のような青い瞳には、燃え盛る怒りが宿っている。
なぜ自分が、他の雄がこの女に触れようとしただけで、ここまで理性を失うのか。
彼自身にも分からない。
だが運命の番としての本能だけは、決して他の雄の侵入を許さなかった。
「消えろ!」
怒号に弾かれるように、灰狼たちは転げるように懲戒室から逃げ出した。ほどなく鉄扉が重く閉じる。
橘陸斗は刑架の前まで歩み寄る。
裸のまま震える杉山夕晴を睨んだ瞬間、胸の奥の苛立ちはいっそう増した。
自分の失態も衝動も、すべてこの女の卑しさのせいだ――そう決めつけるように。
「何だ? あいつらに触られなくて、がっかりしたか」
橘陸斗は彼女の腰を乱暴に掴み、獣じみた口づけで食らいつくように肌を噛んだ。滲んだ血とともに、いくつもの歯形が肌へ刻まれていく。
彼はベルトを引き抜き、片手で彼女の尻を押さえつける。
そして、自らを掴むと――そのまま容赦なく身を押し入れた。
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それが、人生最大の計算違いになるとも知らずに。
新しく父親になったサイラスは、裏社会の生ける伝説と呼ばれる【最強の殺し屋】。
母親は、引退した【超一流の暗殺者】。
兄たちは、国を揺るがす【狂気の天才科学者】と、歩く人間兵器な【最凶の武闘派】。
――ようこそ、世界で最も物騒な「普通の家族」へ。
かつての実家が消えたシェリーを必死に捜索する裏で、彼女は文字を習うより先に、銃の分解方法を叩き込まれていた。
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彼女は家族に全肯定され、狂愛される「怪物ちゃん」。
かつて自分を捨てた傲慢な貴族どもを、今度はその牙で、完膚なきまでに噛み砕く番だ。
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彼に差し出される毒も、背後に潜む暗殺の罠も、すべて私の視界の中にある。
これは彼を導くための道標であり、魂の誓い。
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彼女は人知れず巨額の資産と強大なコネクションを築き上げていたのだ。
真実を知った心晴は、復讐の狼煙を上げる。
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地獄の淵で誓った「死」の宣告――裏切り者たちへのレクイエム
雪の中で凍え死にかけた私を救ったのは、復讐の代行者。
「選べ。彼らを許すか、地獄へ送るか」 私の答えは決まっている。
膝をついて泣き言を漏らす夫を見下ろしながら、私は冷たく微笑む。
罪を償う時間よ。地獄の火よりも熱い、復讐の始まりを教えるわ。
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病院で「白血病」という絶望的な診断を受けたその日。
震える足で帰宅した私の目に飛び込んできたのは、夫の裏切りの証拠だった。
私たちの神聖な寝室。
そのベッドの上には、無惨に引き裂かれたレースの下着がわざとらしく残されていたのだ。
それは明らかに、夫の愛人からの宣戦布告。
「あなたはもういらない」と嘲笑うかのような、残酷なマウントだった。
命の期限を突きつけられた日に、愛まで失った私。
絶望の淵で、私はある決断を下す。
二度目はない 動じず咲く
婚約者は身ごもった愛人を腕に抱き寄せたままそこに立ち、私を鼻で笑っていた。「俺がいなきゃ、お前なんて何の価値もない」
私はきびすを返し、この街で最も裕福な男の扉を叩いた。「ロック氏、政略結婚にご興味はおありですか? 千億ドル相当の株式――それに加え、未来のビジネス帝国も無料でお付けいたしますわ」
社長、突然の三つ子ができました!
あの忌まわしい夜から逃げるように去った私だったが、ほどなくして三つ子を妊娠していることに気付く。
五年後、医療界の新星として戻ってきた私は、継母、継姉、実の父へ全ての仕返しを誓う。
その時、彼が現れた。三人の小さな自分そっくりの顔をじっと見つめながら、優しく「パパ」と呼ぶよう子供たちを誘う彼。
ふとシャツのボタンを外し、悪戯っぽく笑って言った――
「どうだい、あの夜の熱をもう一度味わってみないか?」













