別れ話の後、元彼がひざまずいて「行かないで」と懇願してきた

別れ話の後、元彼がひざまずいて「行かないで」と懇願してきた

渡り雨 · 完結 · 32.9k 文字

634
トレンド
20.9k
閲覧数
564
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

祖母の癌治療のために、私は神宮寺翔のペットになった。

彼は私を束縛し、屈辱を与え、調教した。

ある日、彼がこう言うのを聞いた。「雪菜か?遊びでいいんだ、責任なんて取りたくない。でもまあ従順だし、もし妊娠したら結婚してもいいかな」

私は慌てて下腹部に手を当て、病院で中絶手術の予約を取った。

彼と結婚なんて絶対にしたくない。

私が欲しいのは自由だけだ。

チャプター 1

 東京の午後の日差しは、針のように突き刺さる。

 私はテニスコートの端にしゃがみ込み、首筋を伝ってジャージの襟元へと滑り落ちる汗を感じていた。また一球、黄色いボールが足元に転がってくる。私は機械的に腰をかがめてそれを拾い上げ、白いポロシャツを着た男に差し出した。

 神宮寺翔はボールを受け取るが、私を見ようともしない。

「雪菜、もっとテキパキ動けねえのかよ」彼は苛立たしげに手を振った。「調子狂うだろ」

「すみません」

 私は頭を下げ、コート脇の影の中へと下がる。

 彼の友人たちがドッと沸いた。

 誰かが小声で言うのが聞こえる。「翔の彼女、マジで従順だな」

 従順。

 この言葉を聞かされて、もう六年になる。

 青葉大学の図書館でのあの『偶然の出会い』から、自分が演じるべき役回りは分かっていた——従順なペット。呼べばすぐに来る影のような存在。

 私はうまくやった。あまりに完璧に演じすぎて、これらすべてが自分自身で仕組んだ罠であることを忘れかけるほどに。

「休憩!」翔の声が思考を遮る。

 彼はぞんざいに私に向かって手を振った。「飲み物買ってこい」

「はい」

 立ち上がると、長くしゃがんでいたせいで膝が微かに痺れていた。

 休憩所へ向かう背後から、ラケットが地面を叩く音と、男たちの屈託のない笑い声が混じり合って聞こえてくる。

 このクラブの会費は、私のバイト代三ヶ月分に相当する。だというのに、私には更衣室に入る資格すらない。

 休憩所は自販機のすぐ横にある。

 近づいた瞬間、中から翔の友人の声が漏れ聞こえてきた。「翔、そろそろ桐谷と結婚すんじゃね? もう長いだろ」

 自販機のボタンへ伸ばした手が止まる。

「結婚?」翔が笑った。聞き飽きるほど耳にしてきた、あのお決まりの見下すような笑い声だ。「遊びだよ、遊び」

 指先が冷たい金属の表面に触れる。

「まあ、あいつは確かに大人しいからな」彼は続ける。「俺の好みに合ってるし、万が一子供でもできたら……結婚してやってもいいけど」

 誰かが冷やかす。「なら急がねえとな!」

「そういや」不意に別の声が割って入った。「白石さんがフランスから戻ってくるって聞いたぜ?」

 空気が一瞬、凍りついた。

「……ああ」翔の声は歯切れが悪い。明らかに返答に窮している様子だ。

 ボタンを押すと、ゴトンという鈍い音と共に缶コーヒーが取り出し口に落ちた。缶に触れた瞬間、その冷たさが心臓まで伝わっていく。

 六年だ。

 六年前、私は青葉大学の図書館の入り口に立ち、白石千夏に振られたばかりのこの男を見つめていた。彼の怒り、復讐心、そしてプライドを計算しながら。彼が自身の価値を証明するために、好き勝手に踏みにじれる相手を求めていることは分かっていた。そして私には金が必要だった——祖母の治療費、学費、生きていくための金が。

 だから私はわざと彼の前に姿を現し、羨望の眼差しを向け、『偶然』を装ったのだ。

 彼が初めて金を渡し、私を「ペット」にした時、屈辱を受ける覚悟はできていた。

 だが、この取引が六年も続くとは予想外だった。

 ましてや六年目にして、こんな会話を聞くことになろうとは。

「遊びだよ」

 私は屈んで飲み物を取り出す。顔の表情はピクリとも動かない。鏡のような自販機の表面に、私の顔が映り込んでいる——蒼白で、平穏で、まるで精巧な仮面のようだ。

 仮面の下には何が隠されている?

 怒りか? いや、そんな感情は安っぽすぎる。

 失望? それも違う。最初から期待などしていなかったのだから。

 ふと、祖母の病状が安定したことを思い出す。学費もあらかた貯まった。アメリカの大学院への出願書類も半年以上前から準備済みで、あとは好機を待つだけだった。

 白石千夏の帰国。それこそが、待ち望んだ好機なのかもしれない。

 飲み物を抱えてコートへ戻る。日差しが目に痛い。

 翔は友人たちと談笑していたが、私を見るなり手を伸ばして飲み物を受け取った。礼の一言もない。

「雪菜」蓋を開けて一口飲むと、彼は言った。「今夜は付き合いがあるから、待たなくていいぞ」

「分かりました」私はうつむき、子猫のようにおとなしい声で答える。

 彼は満足げに頷き、背を向けて友人との会話に戻った。私はコート脇の影に退き、無意識にスマートフォンを指で摩る。

 ラケットを振る翔を一瞥し、唇の端を吊り上げた。

 六年の歳月。そろそろ幕引きだ。

 夜の十一時。私は十平米のアパートに戻っていた。

 翔の付き合いはまだ終わっていないらしく、スマホには何の連絡もない。クローゼットの奥から、埃を被ったスーツケースを引きずり出す——三年も前から準備していたものだ。

 中にはパスポートに通帳、重要な証書、そしてアメリカ行きの片道航空券の予約確認書が入っている。

 ベッドの縁に座り、スマホのアルバムを開く。

 一番上にあるのは、今日テニスコートで撮った写真だ。翔に頼まれて、彼と友人たちの集合写真を撮ったもの。

 写真の中の彼は爛漫と笑い、友人の肩に手を回している。陽光が彼の顔を黄金色に染めていた。

 私は画面の端にすら入っていない。

 その写真を削除し、さらに指を滑らせる。

 六年分の写真。そのほとんどが彼だ——レストランでの食事、パーティでの付き合い、オフィスでの仕事姿。私は忠実な専属カメラマンのように、彼の輝かしい瞬間を記録し続けてきた。

 けれど、二人のツーショットは一枚もない。

 一枚の写真で指が止まる——六年前、青葉大学の図書館前だ。安っぽい服を着て、本の山を抱えている私。その瞳は透き通るように澄んでいる。

 あの頃の私はまだ信じていた。努力さえすれば運命は変えられると。

 後に知ったのだ。努力だけではどうにもならない運命があることを。だが、計算でなら変えられる。

 アルバムを閉じ、銀行アプリを開く。この六年で貯めた金は、アメリカでの1年目の学費と生活費を賄うに十分だ。祖母の医療費も精算済みで、病状も安定し、長期療養型の一般病棟へ転院できることになった。

 準備はすべて整っている。

 あとは、去るための理由だけ。

 不意にスマホが震えた。翔からのメッセージだ。

「終わった。今からそっち行く」

 メッセージを見つめ、キーボードの上で指を彷徨わせる。

 以前なら即座に「分かりました」と返し、彼好みの寝間着に着替えて待機していただろう。だが今夜は、演じる気になれない。

「ちょっと体調が悪くて。早めに休みたいんです」

 送信。

 スマホが三秒沈黙し、再び震え出した——着信だ。

「もしもし」私は受話器を取り、あつらえ向きの疲れた声を出す。

「体調悪いって?」翔の声には苛立ちが混じっている。「どこが悪いんだ?」

「たぶん熱中症です。テニスコートの日差しが強かったから」私は軽く咳払いをした。「明日には治ります」

 彼は少しの間、黙り込んだ。「……そうか。なら大人しく寝てろ」

「はい。翔さんも早く帰ってくださいね」

 通話を切る瞬間、彼の向こう側から女の笑い声が聞こえた。

 スマホをベッドに放り投げ、窓辺へと歩み寄る。東京の夜景は煌々と輝いていた。この街に光が欠けたことはないが、その光が私の生活を照らしたことなど一度もなかった。

 ベッドの脇にはスーツケースが静かに横たわっている。旅立ちを待つ秘密のように。

 昼間、休憩所の外で耳にした言葉を思い出す——「白石さんが帰ってくる」

 かつて翔を拒絶した女。彼のプライドを傷つけた女。そして間接的とはいえ、私のこの六年を作り上げた女。

 彼女が帰ってくる。

 私はふと笑みをこぼした。

 上等だ。帰ってくればいい。

 そして私は、彼女が戻る前に音もなく消え去るのだ。

 まるで、最初から存在しなかった夢のように。

 窓の外で小雨が降り始めたらしい。雨粒がガラスを叩き、細かな音を立てている。冷たい窓に手を触れると、指先から白い霧が広がっていった。

 ようやく、終わる。

最新チャプター

おすすめ 😍

監禁から1年、捨てられた令嬢は元婚約者の叔父を娶る

監禁から1年、捨てられた令嬢は元婚約者の叔父を娶る

70.8k 閲覧数 · 連載中 · 鈴木楓花
監禁から1年。ようやく帰宅した今井心晴を待っていたのは、変わり果てた日常だった。
家族は心晴を探そうともせず、あろうことか姉の今井優奈のために盛大な誕生日パーティーを開いていた。
しかも、その横には心晴の元婚約者の姿が……二人は婚約していたのだ。
しかし、心晴はただの被害者ではなかった。
彼女は人知れず巨額の資産と強大なコネクションを築き上げていたのだ。
真実を知った心晴は、復讐の狼煙を上げる。
彼女が選んだ新たなパートナーは、なんと元婚約者の叔父だった。
「これからは私のことを『おばさん』と呼ぶのよ、優奈!」
離婚後、ママと子供が世界中で大活躍

離婚後、ママと子供が世界中で大活躍

180.4k 閲覧数 · 連載中 · yoake
18歳の彼女は、下半身不随の御曹司と結婚する。
本来の花嫁である義理の妹の身代わりとして。

2年間、彼の人生で最も暗い時期に寄り添い続けた。
しかし――

妹の帰還により、彼らの結婚生活は揺らぎ始める。
共に過ごした日々は、妹の存在の前では何の意味も持たないのか。
舐めるつもり?なら、思い知らせてあげる

舐めるつもり?なら、思い知らせてあげる

25.5k 閲覧数 · 連載中 · 桜井 ゆい​
18年間、自分が実の娘でないとは知らずに生きてきた。ある日、荷物をすべて玄関の外に放り出され、街角に立ち尽くす私の前に現れたのは、噂では極貧だという「生家」から迎えに来た、見たこともない「兄」。

ところが、その兄が乗ってきたのはトラクターだった。

ガタガタと揺れるトラクターがたどり着いた先は、まるで古城のような大邸宅。そこで私は思い知る。本当の家族のもとに引き取られた私は、貧しくなるどころか、前よりずっと裕福になっていたのだ。

……だが、ちょっと待ってほしい。なぜ私には突然、婚約者というものが存在するのか。しかもその相手は、私の大学の教授だという。誰か、説明してくれないだろうか。
令嬢は離婚を機に大富豪への道を歩む

令嬢は離婚を機に大富豪への道を歩む

764.1k 閲覧数 · 連載中 · 蜜柑
天才陰陽師だった御影星奈は、かつて恋愛脳のどん底に落ち、愛する男のために七年もの間、辱めに耐え続けてきた。しかしついに、ある日はっと我に返る。
「瀬央千弥、離婚して」
周りの連中はこぞって彼女を嘲笑った。あの瀬央様がいなくなったら、御影星奈は惨めな人生を送るに決まっていると。
ところが実際は――
財閥の名家がこぞって彼女を賓客として招き入れ、トップ俳優や女優が熱狂的なファンに。さらに四人の、並々ならぬ経歴を持つ兄弟子たちまで現れて……。
実家の御影家は後悔し、養女を追い出してまで彼女を迎え入れようとする。
そして元夫も、悔恨の表情で彼女を見つめ、「許してくれ」と懇願してきた。
御影星奈は少し眉を上げ、冷笑いを浮かべて言った。
「今の私に、あなたたちが手が届くと思う?」
――もう、私とあなたたちは釣り合わないのよ!
夜に沈む

夜に沈む

7.9k 閲覧数 · 連載中 · 洛陽柱
初恋の相手は、百万ドルと引き換えに私を捨てた。そうして私は、望まぬ政略結婚へと追いやられた。

あれから五年。彼が再び私に会おうとした、その時——夫がそのすべてを知ることになる。
地獄の淵で誓った「死」の宣告――裏切り者たちへのレクイエム

地獄の淵で誓った「死」の宣告――裏切り者たちへのレクイエム

3.6k 閲覧数 · 連載中 · 南宮
夫は私を病院へ放り込み、愛人と笑い、娘を飢えさせた。
雪の中で凍え死にかけた私を救ったのは、復讐の代行者。
「選べ。彼らを許すか、地獄へ送るか」 私の答えは決まっている。
膝をついて泣き言を漏らす夫を見下ろしながら、私は冷たく微笑む。
罪を償う時間よ。地獄の火よりも熱い、復讐の始まりを教えるわ。
私が囲っている億万長者

私が囲っている億万長者

2.8k 閲覧数 · 連載中 · ほしの ちなつ
私はただ、心の痛みを紛らわせたかっただけ。

彼は息を呑むほど美しく、落ちぶれていた。夫の裏切りがもたらした傷が完全に癒えるまで、彼をそばに置いておくつもりだった。

お金で彼の付き添いを買い、すべてのルールを私が決め、すべてを完全に掌握しているつもりだった。

けれど、私の隣で横たわるこの男の正体は、彼が語ったものとはまるで違っていた。

魅惑的な笑顔と抗いがたい容姿の下に隠されていたのは、仇敵から身を隠す億万長者の素顔だった。

今や彼は、私の生活に、私のベッドに、そして私の心に――完全に絡みついている。

身を引くことは、彼のそばにいることよりも、もっと危険かもしれない。
余命宣告された日、帰宅するとベッドに「引き裂かれた愛人の下着」があった

余命宣告された日、帰宅するとベッドに「引き裂かれた愛人の下着」があった

48.1k 閲覧数 · 連載中 · 七海
結婚して5年、夫とは円満だと思っていた。
しかし、運命は残酷だ。

病院で「白血病」という絶望的な診断を受けたその日。
震える足で帰宅した私の目に飛び込んできたのは、夫の裏切りの証拠だった。

私たちの神聖な寝室。
そのベッドの上には、無惨に引き裂かれたレースの下着がわざとらしく残されていたのだ。

それは明らかに、夫の愛人からの宣戦布告。
「あなたはもういらない」と嘲笑うかのような、残酷なマウントだった。

命の期限を突きつけられた日に、愛まで失った私。
絶望の淵で、私はある決断を下す。
二度目はない 動じず咲く

二度目はない 動じず咲く

108.1k 閲覧数 · 完結 · Gloria Fox
結婚式の一ヶ月前、私は一年かけて自らの手で縫い上げたウェディングドレスを燃やした。

婚約者は身ごもった愛人を腕に抱き寄せたままそこに立ち、私を鼻で笑っていた。「俺がいなきゃ、お前なんて何の価値もない」

私はきびすを返し、この街で最も裕福な男の扉を叩いた。「ロック氏、政略結婚にご興味はおありですか? 千億ドル相当の株式――それに加え、未来のビジネス帝国も無料でお付けいたしますわ」
社長、突然の三つ子ができました!

社長、突然の三つ子ができました!

268.1k 閲覧数 · 連載中 · キノコ屋
五年前、私は継姉に薬を盛られた。学費に迫られ、私は全てを飲み込んだ。彼の熱い息が耳元に触れ、荒い指先が腿を撫でるたび、震えるような快感が走った。

あの忌まわしい夜から逃げるように去った私だったが、ほどなくして三つ子を妊娠していることに気付く。

五年後、医療界の新星として戻ってきた私は、継母、継姉、実の父へ全ての仕返しを誓う。

その時、彼が現れた。三人の小さな自分そっくりの顔をじっと見つめながら、優しく「パパ」と呼ぶよう子供たちを誘う彼。

ふとシャツのボタンを外し、悪戯っぽく笑って言った――

「どうだい、あの夜の熱をもう一度味わってみないか?」
すべてを奪われた令嬢は、やり直しの人生で微笑む

すべてを奪われた令嬢は、やり直しの人生で微笑む

27k 閲覧数 · 連載中 · 夢物語
冷たい土の中、私はゆっくりと息絶えようとしていた。
視界を染めるのは絶望の闇。そして、耳元に届くのは――従妹・原田紀奈の、歪んだ嘲笑。

「お姉ちゃん、恨むなら自分の甘さを恨みなさい」

父の薬をすり替え、母を死に追いやり、兄の事故さえ仕組んだ。すべては、目の前で笑うこの女の仕業だった。
さらに突きつけられる、あまりにも残酷な真実。

「あなたの婚約者はね、あなたが身を削って得たお金で、私への婚約指輪を買ったのよ?」

――すべてを奪われ、絶望の中で命を落とした、はずだった。

しかし、次に目を覚ますと、そこは見覚えのある「19歳の誕生日パーティー」の会場。
前世と同じように、婚約者の七瀬崚介が私に無実の罪を着せ、謝罪を迫っている。

(……でも、もう私は、あの頃の愚かな人形じゃない)

奪われた人生も、向けられた悪意も、そのすべてを覚えている。
今度は、私が奪い返す番。
裏切り者たちに、地獄以上の絶望を――たっぷり利子を付けて、返してあげる。
本物令嬢の正体がばれました

本物令嬢の正体がばれました

129.3k 閲覧数 · 連載中 · ワニノコ
新谷南は新谷家で二十年も育てられたのに、本当の娘が戻ってきた途端、あっさり家を追い出された。

デザイン部のディレクターの席? 本当の娘へ。
何千万円もの価値がある婚約話? 本当の娘へ。

会社中の人間が、彼女という「野良扱いの娘」がどう転げ落ちていくか、笑いものにしようと様子をうかがっていた。

そんなある日、世界限定二十台の高級バイクが会社の前に止まる。降りてきた不良っぽいイケメンが言った。

「妹、兄貴と一緒に帰るぞ」

新谷家の人間「……は?」

そのあとで彼らはようやく知ることになる。

彼女こそ、国内外の美術館の館長たちが面会待ちの列を作る「南先生」と呼ばれるアーティストであり、
新谷グループの全受賞特許の名義人であり、
さらに、伝説の「国家並みの資産を持つ」と噂される周防家の、本当の長女だということを。

大手財閥の若き当主は、封印していた婚約書を取り出し、薄く唇を吊り上げる。

「なるほど。俺の本当の婚約者は、君だったわけか」