紹介
七年間、私は彼の呪いを解くために神血を枯渇寸前まで流し続けた。誰もが知っていた。私が彼を無条件に愛していることを。
彼の冷酷な嘲笑がすべてを打ち砕くまでは。
「セラフィナが俺の卵を産んだ。狩猟祭の後、彼女を王妃に迎える。エララは同盟を宥めるために側に置いておけ。あいつは俺に狂ったように惚れ込んでいるから、喜んで奴らの盾になるだろう」
胸の奥深くで何かが砕け散った。共感脈——私の感情を彼と結びつけていた魔法そのもの——が断ち切れたのだ。
心の痛みはなかった。取り乱すこともなかった。あの息苦しいほどの愛は一瞬で消え去った。今イグニスを見ても、価値のない石ころを見ているようなものだった。
私は冷静に神殿へ戻り、エルフ王アウレリウスから送られていた婚姻の勅令を発動させた。
次元の門が充填中。出発まで、三日。
チャプター 1
私は太古の星神の転生体であり、黒曜竜王――イグニスの「運命の番」だった。
七年ものあいだ、私は神の血が尽きかけるほど流しながら、彼にかけられた呪いを解くために身を削ってきた。私が彼を無条件に愛していることは、誰もが知っていた。
あの氷のような嘲笑が、すべてを粉々にするまでは。
「セラフィナが俺の卵を産んだ。狩猟祭典が終わったら、彼女を女王に戴冠させる。エララは同盟を宥めるために手元に置いておけ。あいつは俺に狂ったように惚れてる。連中の盾にだって喜んでなるさ」
胸の奥で、何かがぷつりと切れた。共感の脈――感情を彼に結びつけていた魔法の血管が、砕け散ったのだ。
失恋の痛みも、取り乱しもない。息が詰まるほどの愛は、瞬きひとつで消し去られた。いまの私がイグニスを見るのは、道端の価値のない石ころを眺めるのと同じだった。
私は淡々と神殿へ戻り、エルフ王アウレリウスから届いていた婚姻の勅令を発動させた。
領地への転移門は準備中。出発まで三日。
私は黒曜の紋章――イグニスの番である証――を留め具から外し、廃棄の印へ落とした。
「エララ! 本気で行くの? エルフの政略結婚なんて!」親友のライラが、信じられないという顔で私を見つめた。
「うん。転移門は魔力充填済み。三日後に開く」
ライラは逡巡し、声を震わせた。「本当に竜界を出るの? イグニスを……七年も守り続けてきたあの人を捨てるなんて、耐えられるの?」
私は手を止め、眉をひそめて自分の内側を探った。名残の感情が、どこかに残っていないか。
何もない。ただ、彼の名を聞かされる羽目になったことへの、痺れるような苛立ちだけだった。
「千回も私を拒んだ竜を、どうして恋しがる必要があるの?」私は平坦に言った。
「あなた、自分を拷問のように追い込んでたじゃない!」ライラは重たい水晶のアルバムを引っ張り出した。「あの人のために死にかけた! なのにセラフィナ――ただの成り上がりの光の神官――が、ふらっと現れて全部横取りした!」
私は立体投影を見つめた。そこに映っていたのは、七年分の哀れな記録――願い出ては突き放され、冷たく押しのけられる私の姿ばかりだった。
心を差し出すたび、必ず私たちの間には第三者が立つ。セラフィナが。
かつて彼のために貫かれた胸の奥が、幻のように疼いた。だが心は、凍りついたように静かだった。
私は指先を上げ、冷たい星明かりの火花を灯す。ためらいもなく炎はアルバムを丸ごと飲み込んだ。
「三日後に出ていく。こんな一方通行の絆、そろそろ切る時だ。再出発のために、不要な荷物を捨ててるだけ」
「切るって何を?」戸口から嘲る声がした。「また駆け引きか、エララ?」
イグニスが枠にもたれかかり、巨体の存在感が息苦しいほどの威圧となって滲み出ていた。
ライラがすぐ私の前に出る。「エララの共感の脈が――」
「お前に聞いてない」イグニスは遮り、その視線は刃のように真っすぐ私を貫いた。
彼は一歩踏み込み、命令口調で言った。「務めを果たせ、エララ。くだらない小細工はやめろ。セラフィナに近づくな。準備しろ。明日の王室狩猟祭に来い」
私は他人を見るような目で彼を見た。「どうして私が?」
「セラフィナが卵を産んだばかりだ。弱って不安定なんだ」イグニスは言い、珍しく声に柔らかさが混じった。「気晴らしに連れて行く。まだ称号がないから、純血の連中が面倒を起こす。お前がいれば、誰も手出しできない」
思わず笑いそうになった。愛人と、その私生児の卵の肉盾になれというのか。
「嫌」私は背を向け、荷造りを続けた。
イグニスの息が詰まるのがわかった。反抗がよほど意外だったのだろう。次の瞬間、怒りが瞳に燃え上がる。彼は跳びかかり、荒い手で私の手首を万力のように掴んだ。灼ける竜の熱が瞬時に皮膚を焼いた。
「その惨めな嫉妬を引っ込めろ!」咆哮とともに、彼は私を引きずって扉へ向かわせた。
乱暴に扱われ、彼のために負った古傷が裂けた。
「イグニス……」廊下の奥から、病的に甘く、か細い声が流れてきた。
セラフィナが卵を抱えて立っていた。脆さは、計算し尽くされた完璧なものだった。
イグニスの金の瞳が見開かれる。誤解されることを恐れたのか、彼は私の腕を汚れたものに触れたかのように放り捨てた。
体勢を崩していた私は、そのまま後ろへ倒れた。後頭部が石床に激しく叩きつけられる。
視界が真っ暗になった。冷や汗が噴き出し、喉に空気が引っかかる。
ライラが悲鳴を上げ、私の傍らに崩れ落ちた。「エララ!」
セラフィナは柱の陰に身を縮めた。勝ち誇った光が一瞬だけ瞳をよぎり、すぐに作り物の怯えた涙へと変わる。
「私のせい……ただ会いたかっただけなの。私の身分が低いのはわかってるし、エララが怒るのも当然……でも、お願い、私の卵を怖がらせないで……」
イグニスは私を一瞥すらせず、卵を片腕で包み込み、セラフィナをそっと胸に抱き寄せた。
「正気なの、イグニス!?」ライラが叫んだ。私の頭の下で血が溜まっていくのが見えたのだ。「彼女はあなたの運命の番よ! セラフィナのために、番をこんな目に遭わせるの!?」
イグニスは振り向きざまに踵を返し、ずかずかと戻ってきた。そして手を振り上げ、私の頬を容赦なく打った。
頭が横に弾け、耳鳴りがした。口の中に鉄の味が広がる。
彼は私の上にそびえ立ち、虫けらでも見るように言い放つ。「ただまとわりつく女だと思ってたが、毒まで持ってやがったか。お前の飼い犬に俺を吠えさせるな。警告だ、エララ――もう一言でも口を開いたら、生き地獄を見せてやる」
「明日、午前八時。狩猟祭典の拠点だ。来なかったら、セラフィナに恥をかかせた罪で――この神殿で確実に殺してやる」
彼はセラフィナを庇いながら廊下の奥へ消えた。振り返りもしない。
ライラの頬を涙が伝った。癒やしの魔法を流し込みながらも、深く裂けた頭の傷に触れるのが怖くて手が震えている。
「エララ、ごめん……私が挑発しなければ……」
私はゆっくり立ち上がった。頬は熱く疼いたが、目は乾いたままだ。鼓動も、驚くほど一定だった。
私は空っぽの廊下を見下ろした。
この無用な絆は、形式上まだ切れていない。だから明日の祭典では、どうせ最後の芝居をしなくてはならない。けれど私にとってそれは、彼との絆を完全に断ち切る前の、面倒で退屈な最終手順にすぎなかった。
残り三日。
三日後、私はこの息苦しい領地を去り、ようやく自分のために生きるのだ。
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