マフィアの夫に選ばれなかった妻

マフィアの夫に選ばれなかった妻

大宮西幸 · 完結 · 25.0k 文字

337
トレンド
553
閲覧数
0
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

私はホールルームの真ん中に立ち、ゲストたちが私とギデオンの結婚五周年を祝う声に耳を傾けていた。でも、心は凍りついたように冷たかった。

周りでは、人々がひっきりなしに喋っていた。

「ギデオンがイザベラをどれだけ愛してるか、みんな知ってるでしょ? 彼が彼女を見る目、見た?」

「五年も経つのに、まだ新婚夫婦みたいよね」

「路上生活からニューヨークの支配者へ――本物のおとぎ話だわ」

おとぎ話。

笑ってしまいそうだった。

チャプター 1

 会場の中央に立ち、私とギデオンの結婚五周年を祝うゲストたちの言葉に耳を傾けながらも、私の心は凍てついたように冷え切っていた。

 周囲では、人々が口々に話し続けている。

「ギデオンがどれほどイザベラを愛しているか、誰もが知っていることだ。あの彼女を見る目つき、見たか?」

「結婚して五年経つのに、まるで新婚夫婦のようね」

「ストリートから這い上がり、今やニューヨーク全体を牛耳るまでになった。まさに生けるおとぎ話だ」

 おとぎ話、か。笑わせてくれる。

 三日前、雇っていた私立探偵から一本の動画が送られてきた。それをクリックして再生した瞬間、心臓が止まるかと思った。

 画面の中のギデオンは衣装室にいて、白いドレスが並ぶディスプレイの方へ、ある金髪の女性の腰に手を添えてエスコートしていた。その女性がわずかに振り向き、カメラがその横顔を捉える。何より滑稽だったのは、私が見知った顔だったことだ。デイジー。ギデオンの初恋の相手。

 私に告げたロンドンへの出張など嘘だった。彼は二つ隣の街で、別の女とウェディングドレスを選んでいたのだ。

 あの日、私は自分が妊娠していることを知った。位置情報を頼りに彼を追いかけ、驚かせてやろうと思ったのに、驚かされたのは私の方だった。彼は位置情報が示す場所にさえいなかったのだから。だから私は、彼を見つけ出すために探偵を雇ったのだ。

「イザベラ!」

 思考を遮ったのはギデオンだった。彼は黒いベルベットの箱を手に、こちらへ歩み寄ってくる。

 私の前で立ち止まった彼の緑色の瞳は、あまりにも温かく、愛情に満ちていた。なんて上手な嘘つきなのだろう。

「五年前、君に世界を捧げると誓った」彼は声を張り上げた。「今夜、その約束にまた一歩近づいた」

 彼が箱を開けると、そこにはエメラルドのネックレスが輝いていた。

 彼はそれを私の首につけ、額にキスをした。

「ギデオン、奥さんを甘やかしすぎだぞ!」後方から誰かが野次を飛ばす。

「彼女にはそれだけの価値がある」ギデオンは私を抱き寄せながら続けた。「この女性は地獄のような日々を共に歩んでくれた。俺のために銃弾を受け、血を流してくれた。今の俺の命があるのは彼女のおかげだ」

 会場は歓声と口笛に包まれた。

 なら、なぜあの女とウェディングドレスを選んでいたの? その問いが脳裏を焼き尽くす。私があなたの子を宿したと知ったその日に、なぜあんなことをしていたの?

「さて、今夜のために特別なビデオを用意したんだ」ギデオンが言った。

 照明が落ちる。

 だが、私たちの結婚式の写真でも、私が承認した感動的なモンタージュでもなく――

 スクリーンいっぱいに映し出されたのは、裸の女性たちの写真だった。

 会場が静まり返り、誰かが息を呑む音が聞こえた。

 顔の感覚がなくなり、肺に空気が入ってこない。

 一体、何が――

「消せ! 今すぐ消せ!」誰かが怒鳴った。

 照明が再び点灯する。

 その時、部屋の向こうに彼女の姿が見えた。金髪で小柄、淡いピンクのドレスを纏っている。すでに顔を涙で濡らしながら、ギデオンの方へと駆け寄ってきていた。

 デイジーだ。

 ギデオンはステージから飛び降りると、彼女は彼の胸に飛び込み、泣き崩れた。

 彼は真っ直ぐに私を見た。

「イザベラ」彼は私の肘を掴み、部屋の隅へと強引に連れて行った。「今すぐ話がある」

「一体どういうこと?」

「あの写真だ」彼は私と目を合わせずに言った。「あれはデイジーのものだ」

 急にめまいがした。

「誰かが彼女の評判を落とそうとしているんだ」彼は続ける。「頼みがある」

「あの写真は君のものだと言ってくれ」

「……今、なんて言ったの?」

「写真は君のものだと公表してくれ」彼はそれが理にかなっているとでも言うように言った。「数日もすればほとぼりは冷める。だが、デイジーにこんなスキャンダルは耐えられない。彼女は繊細すぎるんだ。でも君には、面と向かって悪口を言える奴なんていない。君は俺の妻だ。誰も手出しできない存在なんだから」

 誰も手出しできない、だって。

「今日は私たちの結婚五周年記念日よ、ギデオン」全身を滅多打ちにされたような惨めな気分だった。

「わかってる、わかってるよ。本当にすまないと思っている。だが、今彼女には俺が必要なんだ。君は彼女よりずっと強いだろう?」彼はそれを褒め言葉のように言った。「たった一晩、ほんの小さな犠牲だ」

 ほんの小さな犠牲。

「……わかったわ」自分の声が聞こえた。

 安堵の色が彼の顔に広がった。「ありがとう。ああ本当に、ありがとうイザベラ――」

 彼はすぐに背を向け、デイジーのもとへ戻ると、彼女を連れて会場を出て行った。

 ゲストたちも逃げるように去っていった。

 私は一人で家に帰った。

 モレッティ邸は完全に闇に包まれていた。ギデオンがまだ帰っていないのは明白だった。

 私はベッドの端に座り、あの動画をもう一度見返した。

 手が自然とお腹に伸びる。まだ完全に平らだ。中に命が宿っている兆候は何もない。

 それでも彼に伝えるべきではないか、という思いが心のどこかにあった。彼は父親なのだから、知る権利があるはずだと。

 だが、今の彼に私から何かを得る権利など、本当にあるのだろうか?

 携帯が震え、新しいメッセージが届いた。

 ギデオンからのメッセージ。「デイジーと一緒だ。彼女はかなり動揺している。今夜は彼女の家に泊まって様子を見るつもりだ。俺のことは待たなくていい」

 その文字を見つめていると、突然すべてがクリアになった。私の子に、不誠実な父親など必要ない。離婚して、この子と一緒に出て行こう。

 すると、別の番号からもう一通メッセージが届いた。

 私の父からだ。

「賭けは終わりだ、イザベラ。君の勝ちだ。十日後、ガラパーティーを開いて君の本当の身分を一族に公表する。ギデオンを君の夫として認めよう。帰ってきなさい。家族が待っている」

 視界が涙で滲んだが、決してこぼれ落ちないように堪えた。

 私は返信を打ち込んだ。

「十日後。午後三時。空港に迎えの車を寄越して」

最新チャプター

おすすめ 😍

偽物令嬢の逆転劇

偽物令嬢の逆転劇

96.1k 閲覧数 · 連載中 · ひかり
「泥棒女め、今すぐこの家から出て行きなさい!」

実の娘が戻ってきたその日、私はゴミのように家を追われた。
病弱な「お嬢様」の生きる輸血パックとして虐げられ、血を搾り取られ続けてきた日々。用済みになった途端、身に覚えのない盗みの罪を着せられ、婚約者からも冷酷に捨てられた。
元家族たちは、私が「貧しい田舎で野垂れ死ぬ」と信じて疑わなかった。

だが、彼らは何も知らなかったのだ。
私が、世界中のVIPが縋る伝説の名医であることも。
私を迎えに来たオンボロトラックが、実は国家機密級の超高級カスタムマシンであることも。
そして、私の本当の実家が、国さえも動かす世界屈指の超巨大財閥だということも!

「今まで苦労をかけたね、私たちの可愛いお姫様」
生き別れていた超過保護な両親と、各界の頂点に君臨する最強の兄たちに狂おしいほど溺愛されるシンデレラライフが幕を開ける!
一方、大切な「命の恩人」を自ら捨てた元家族たちには、破滅へと向かう絶望の後悔タイムが待ち受けていて!?

虐げられた天才少女が本当の愛と富を掴み取る、逆転ファンタジー、ここに開幕!
監禁から1年、捨てられた令嬢は元婚約者の叔父を娶る

監禁から1年、捨てられた令嬢は元婚約者の叔父を娶る

97.9k 閲覧数 · 連載中 · 鈴木楓花
監禁から1年。ようやく帰宅した今井心晴を待っていたのは、変わり果てた日常だった。
家族は心晴を探そうともせず、あろうことか姉の今井優奈のために盛大な誕生日パーティーを開いていた。
しかも、その横には心晴の元婚約者の姿が……二人は婚約していたのだ。
しかし、心晴はただの被害者ではなかった。
彼女は人知れず巨額の資産と強大なコネクションを築き上げていたのだ。
真実を知った心晴は、復讐の狼煙を上げる。
彼女が選んだ新たなパートナーは、なんと元婚約者の叔父だった。
「これからは私のことを『おばさん』と呼ぶのよ、優奈!」
余命宣告された日、帰宅するとベッドに「引き裂かれた愛人の下着」があった

余命宣告された日、帰宅するとベッドに「引き裂かれた愛人の下着」があった

58.5k 閲覧数 · 連載中 · 七海
結婚して5年、夫とは円満だと思っていた。
しかし、運命は残酷だ。

病院で「白血病」という絶望的な診断を受けたその日。
震える足で帰宅した私の目に飛び込んできたのは、夫の裏切りの証拠だった。

私たちの神聖な寝室。
そのベッドの上には、無惨に引き裂かれたレースの下着がわざとらしく残されていたのだ。

それは明らかに、夫の愛人からの宣戦布告。
「あなたはもういらない」と嘲笑うかのような、残酷なマウントだった。

命の期限を突きつけられた日に、愛まで失った私。
絶望の淵で、私はある決断を下す。
私が彼を滅ぼした――だから、今度はこの命を捧げて守り抜く

私が彼を滅ぼした――だから、今度はこの命を捧げて守り抜く

9.3k 閲覧数 · 連載中 · 南宮
愛する人を殺めた罪の重さ、その疼きを私は決して忘れない。
二度目の生を得た私は、かつて私が踏みにじった孤独な王のもとへ再び舞い戻った。
「未来」という名の禁断の知恵を、唯一の嫁入り道具として。
彼に差し出される毒も、背後に潜む暗殺の罠も、すべて私の視界の中にある。
これは彼を導くための道標であり、魂の誓い。
彼を闇へ堕としたかつての私は、もういない。
今、私は彼を守り抜くために全てを焼き払う、最も鋭き刃となる。
不倫夫を捨て、私は大富豪の妻になる

不倫夫を捨て、私は大富豪の妻になる

308.9k 閲覧数 · 連載中 · 七海
人生最良の日になるはずだった、結婚式当日。
新郎の車から出てきたのは、見知らぬ女の派手なレースの下着だった。

しかも、その布切れにはまだ。生々しい情事の痕跡が残されていた。

吐き気がするほどの裏切り。
幸せの絶頂から地獄へと突き落とされた私。

けれど、泣き寝入りなんてしてやらない。
私はその場でウェディングドレスの裾を翻し、決意した。

「こんな汚らわしい男は捨ててやる」

私が選んだ次の相手は、彼など足元にも及ばない世界的な億万長者で?
令嬢は離婚を機に大富豪への道を歩む

令嬢は離婚を機に大富豪への道を歩む

789.2k 閲覧数 · 連載中 · 蜜柑
天才陰陽師だった御影星奈は、かつて恋愛脳のどん底に落ち、愛する男のために七年もの間、辱めに耐え続けてきた。しかしついに、ある日はっと我に返る。
「瀬央千弥、離婚して」
周りの連中はこぞって彼女を嘲笑った。あの瀬央様がいなくなったら、御影星奈は惨めな人生を送るに決まっていると。
ところが実際は――
財閥の名家がこぞって彼女を賓客として招き入れ、トップ俳優や女優が熱狂的なファンに。さらに四人の、並々ならぬ経歴を持つ兄弟子たちまで現れて……。
実家の御影家は後悔し、養女を追い出してまで彼女を迎え入れようとする。
そして元夫も、悔恨の表情で彼女を見つめ、「許してくれ」と懇願してきた。
御影星奈は少し眉を上げ、冷笑いを浮かべて言った。
「今の私に、あなたたちが手が届くと思う?」
――もう、私とあなたたちは釣り合わないのよ!
転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

330k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
婚約者が浮気していたなんて、しかもその相手が私の実の妹だったなんて!
婚約者にも妹にも裏切られた私。
さらに悲惨なことに、二人は私の手足を切り落とし、舌を抜き、目の前で体を重ね、そして私を残酷に殺したのです!
骨の髄まで憎い...
しかし幸いなことに、運命の糸が絡み合い、私は蘇ったのです!
二度目の人生、今度は自分のために生き、芸能界の女王になってみせる!
復讐を果たす!
かつて私をいじめ、傷つけた者たちには、十倍の報いを受けさせてやる...
すべてを奪われた令嬢は、やり直しの人生で微笑む

すべてを奪われた令嬢は、やり直しの人生で微笑む

41k 閲覧数 · 連載中 · 夢物語
冷たい土の中、私はゆっくりと息絶えようとしていた。
視界を染めるのは絶望の闇。そして、耳元に届くのは――従妹・原田紀奈の、歪んだ嘲笑。

「お姉ちゃん、恨むなら自分の甘さを恨みなさい」

父の薬をすり替え、母を死に追いやり、兄の事故さえ仕組んだ。すべては、目の前で笑うこの女の仕業だった。
さらに突きつけられる、あまりにも残酷な真実。

「あなたの婚約者はね、あなたが身を削って得たお金で、私への婚約指輪を買ったのよ?」

――すべてを奪われ、絶望の中で命を落とした、はずだった。

しかし、次に目を覚ますと、そこは見覚えのある「19歳の誕生日パーティー」の会場。
前世と同じように、婚約者の七瀬崚介が私に無実の罪を着せ、謝罪を迫っている。

(……でも、もう私は、あの頃の愚かな人形じゃない)

奪われた人生も、向けられた悪意も、そのすべてを覚えている。
今度は、私が奪い返す番。
裏切り者たちに、地獄以上の絶望を――たっぷり利子を付けて、返してあげる。
追放された偽物の娘、その正体は最強でした

追放された偽物の娘、その正体は最強でした

640.1k 閲覧数 · 連載中 · ゲゲゲ
「本物の娘が見つかった。お前はもう用済みだ」
あの子が現れたその日、私は『偽物の娘』として家を追い出された。
渡されたのは、わずかな小銭と地方行きの片道切符だけ。
さらに婚約者は私をゴミのように捨て、その日のうちに『本物』であるあの子にプロポーズした。

……上等じゃない。せいぜい勝った気でいればいいわ。
だって彼らは、私の【本当の顔】を何一つ知らないのだから。

名門病院が見放した命を救う『天才外科医』。
オークションで数億円の値を叩き出す『伝説の画家』。
裏社会の闘技場で無敗を誇る『影の女王』。
そして――彼らの全財産すら小銭に思えるほどの『真の巨大財閥の後継者』であることを。

今さら元婚約者が土下座で許しを請おうと、本物の娘が嫉妬で狂いそうになろうと、もう遅い。
かつて私に婚約破棄の書類を叩きつけた冷酷で傲慢なCEOでさえ、今や何かに取り憑かれたように私を追い回し、「もう一度だけチャンスをくれ」とすがりついてくる始末。

私を捨てて、自分たちの人生を『アップグレード』したつもり?
笑わせないで。最初から、圧倒的に上の存在だったのは私のほうよ。
転生して絶縁したら、元家族は破滅に

転生して絶縁したら、元家族は破滅に

20.9k 閲覧数 · 連載中 · ワニノコ
名門古川家の生まれの娘・古川朱那は、前世、父・古川邦夫と三人の兄(礼和、礼希、礼人)が養妹・周防天華を無条件に贔屓し、天華の陰険な陥れに遭い、理不尽に死んだ。
22 歳、天華に陥れられた日に生まれ変わった朱那は、過去の卑屈さを捨て、天華の悪事を暴き、偏心な家族に毅然と立ち向かう。芸能界で演技の才能を開花させ、自らの人生を切り開くため、全力で逆襲する。
私が囲っている億万長者

私が囲っている億万長者

6k 閲覧数 · 連載中 · ほしの ちなつ
私はただ、心の痛みを紛らわせたかっただけ。

彼は息を呑むほど美しく、落ちぶれていた。夫の裏切りがもたらした傷が完全に癒えるまで、彼をそばに置いておくつもりだった。

お金で彼の付き添いを買い、すべてのルールを私が決め、すべてを完全に掌握しているつもりだった。

けれど、私の隣で横たわるこの男の正体は、彼が語ったものとはまるで違っていた。

魅惑的な笑顔と抗いがたい容姿の下に隠されていたのは、仇敵から身を隠す億万長者の素顔だった。

今や彼は、私の生活に、私のベッドに、そして私の心に――完全に絡みついている。

身を引くことは、彼のそばにいることよりも、もっと危険かもしれない。
婚約破棄後、私はヤクザの組長と結婚した

婚約破棄後、私はヤクザの組長と結婚した

69.5k 閲覧数 · 連載中 · やもり
裏切りと陰謀が渦巻く世界で、妃那(えな)は突然の誘拐事件に巻き込まれる。
救いの手を差し伸べたのは謎めいた男・葉夜(かなや)だったが、彼の真意は読めない。
一方、妃那の宿敵であり自信家の祈葉(いのか)は、自らの美貌と魅力を武器に黒社会の頂点を目指すが、
思いもよらぬ残酷な試練に追い込まれていく。
誤解と嫉妬、愛と憎しみが絡み合い、
それぞれの思惑がやがて一つの危険な運命へと収束していく――。