すべてを奪われた令嬢は、やり直しの人生で微笑む

すべてを奪われた令嬢は、やり直しの人生で微笑む

夢物語 · 連載中 · 406.7k 文字

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紹介

冷たい土の中、私はゆっくりと息絶えようとしていた。
視界を染めるのは絶望の闇。そして、耳元に届くのは――従妹・原田紀奈の、歪んだ嘲笑。

「お姉ちゃん、恨むなら自分の甘さを恨みなさい」

父の薬をすり替え、母を死に追いやり、兄の事故さえ仕組んだ。すべては、目の前で笑うこの女の仕業だった。
さらに突きつけられる、あまりにも残酷な真実。

「あなたの婚約者はね、あなたが身を削って得たお金で、私への婚約指輪を買ったのよ?」

――すべてを奪われ、絶望の中で命を落とした、はずだった。

しかし、次に目を覚ますと、そこは見覚えのある「19歳の誕生日パーティー」の会場。
前世と同じように、婚約者の七瀬崚介が私に無実の罪を着せ、謝罪を迫っている。

(……でも、もう私は、あの頃の愚かな人形じゃない)

奪われた人生も、向けられた悪意も、そのすべてを覚えている。
今度は、私が奪い返す番。
裏切り者たちに、地獄以上の絶望を――たっぷり利子を付けて、返してあげる。

チャプター 1

月岡古雅は全身の骨を砕かれ、ぼろ布の人形みたいに土の中へ埋められていた。

薄い空気が胸の奥からじわじわと抜けていく。鼻先を満たすのは血と土の生臭い匂い。指先だけがかすかに震え、湿った泥を掻きむしるように食い込んでいる。

「……はい。もういいわ」

頭上から落ちてきた声は、か弱いのに――毒で焼いたみたいに冷たかった。

従妹の原田紀奈だ。

「お姉さん、私を冷たいなんて責めないでね」

原田紀奈は月岡古雅の頭のそばにしゃがみ込み、残酷な笑みを声に滲ませる。

「責めるなら、自分の世間知らずを責めて。月岡グループほどの財産が、どうして全部あんた一人のものなの? うちの父さんは何年も月岡家のために身を粉にして働いたんだよ。少しぐらい見返りをもらって当然でしょ?」

月岡古雅は真っ赤に充血した目で睨みつけた。虚偽で塗り固めたその顔を引き裂きたかった。

だが土はもう喉元まで来ている。喉から漏れるのは「ひゅっ……ひゅっ……」という空気の抜ける音だけ。

「あ、そうだ」

原田紀奈はふと思い出したように立ち上がった。

「いくつか、ちゃんと教えてあげる」

声を落とす。

「おじさんが急に心筋梗塞を起こした理由、知ってる? 私が薬をビタミン剤にすり替えたの」

「それからおばさん。あんなにプライドの高い人だったのに、倒産の知らせと、おじさんと秘書の合成写真を何枚か見せただけで……三十階から飛び降りた」

月岡古雅の瞳孔がぎゅっと縮む。目の奥から血が滴り落ちるみたいだった。

「お兄さんはね、手足だけは立派で頭が空っぽの人でしょ? レーシングカーにちょっと細工しただけ。ブレーキが利かなくなって、爆発――あっけなかったわ」

月岡古雅の身体が激しく痙攣した。怒りと憎しみが、この壊れた肉体を突き破りそうになる。

両親の慈しむ顔。兄の朗らかな笑い。全部が頭の中で悲鳴を上げる。

全部――こいつのせいだ。

狼を家に招き入れたのは自分。毒蛇を「優しい妹」だと信じた自分。家族を殺したのは、自分の愚かさだった。

「それとね。あんたが骨の髄まで愛してた婚約者、七瀬崚介」

原田紀奈の声が、得意げに弾む。

「どうして急に結婚を承諾したと思う? 本気で、あんたの腎臓一個で愛が買えるって思った? 馬鹿じゃない? あの人が欲しかったのは月岡家の婿って肩書きよ。堂々と月岡グループの最後の資源を飲み込むため」

そこで、わざとらしく間を置く。

「腎臓? 売ったわ。売ったお金で、私にプロポーズのダイヤを買ったの。私たち、ずっと前から付き合ってた。あんたが馬鹿みたいに走り回って尽くしてる間、あの人は私のベッドで『あいつは頭悪くてうざい』って言ってた」

「ぁ……ああああああっ!!」

月岡古雅の喉から、人の形を失った叫びが裂けた。

七瀬崚介を十年愛した。彼の一言だけで手術台に横たわり、迷いなく腎臓を差し出した。

それが愛だと信じていた。だがそれは――最初から、嘲笑のための道具だった。

「叫ばないで。力の無駄よ」

原田紀奈は手についた土を払って立ち上がる。

「月岡グループはもう七瀬のもの。崚介も私のもの。お姉さんはここで、安心して腐って」

遠ざかる足音。最後の光が消える。

無限の闇が、月岡古雅を飲み込んだ。

――許せない。来世があるなら、必ず血で償わせてやる。

——

耳元で、しとしとと雨の音がした。

月岡古雅は跳ね起き、死にかけの魚みたいに口を開けて息を貪った。

天井から下がる水晶のシャンデリア。ベッド脇の絨毯には、シャンパン色のドレスが散らばっている。

ここは――十九歳の誕生日の夜、ヒルトンホテルのスイート。

胸の中で心臓が狂ったように暴れ、月岡古雅は勢いよく起き上がって洗面所へ駆け込んだ。

鏡の中の少女は艶やかな顔立ちで、瞳は澄んでいる。首元には、母が誂えてくれたサファイアのネックレス――十九歳の誕生日プレゼント。

震える手が、左の腰腹へ伸びる。

滑らかな肌。後に腎臓を提供したときの、あの醜い傷はない。

戻ってきた。

全部を取り返せる、始まりへ。

「……はは、ははは……!」

堪えた笑いが、狂喜の嗚咽に変わる。涙が溢れ、頬を濡らした。

ひとしきり吐き出すと、月岡古雅は乱暴に涙を拭った。悲しみは引いて、残ったのは骨に刻まれた憎しみだけ。

原田紀奈、七瀬崚介――首を洗って待ってろ。命を取りに来た悪鬼が、戻ってきた。

そう思った瞬間、携帯の着信音が鳴った。七瀬崚介だ。

遠い記憶が、鮮やかに蘇る。

昨夜は学院恒例の秋の舞踏会。十九歳の誕生日でもあった。

月岡古雅は勇気を振り絞り、皆の前で、月のように崇められる七瀬崚介に近づいて開幕ダンスへ誘った。

だが七瀬崚介は一瞥もくれない。彼のそばにいたラグビー部の男たちが、遠慮の欠片もない哄笑を爆発させた。

「七瀬様にはキャサリン先輩がいるだろ! キャサリン先輩こそセントモン学院のプリンセスだしな!」

月岡古雅はその場に立ち尽くし、滑稽な道化になった。誰もが彼女を嘲笑った。

「あなたが月岡古雅?」

“キャサリン”と呼ばれる女がシャンパンを揺らしながら近づき、見下すような視線で値踏みしてきた。

月岡古雅が答える前に、冷たい液体が頭上から一気に降り注いだ。

黄金色の酒が髪を瞬く間に濡らし、頬を伝い、首筋へと遠慮なく流れ込む。濡れたドレスが肌に張り付き、惨めな輪郭を浮き彫りにした。

「ごめんなさーい。手が滑っちゃった。大丈夫?」

キャサリンが言う。

「きゃははは!」

周囲の女子が一斉に笑い転げ、指をさして身体を折る。

七瀬崚介も騒ぎに気づいたはずなのに、どうでもいい余興でも見るみたいに冷淡に視線を逸らした。

男たちは軽薄な口笛を吹き、嘲りは会場の喧騒に溶けていく。

あの瞬間、氷の冷たさと焼ける熱さが体内でぶつかり、圧倒的な羞恥が月岡古雅を溺れさせた。

回想が途切れても、着信音は鳴り続けている。

月岡古雅は冷笑し、通話ボタンを押した。

『昨日の件、説明してもらう。在学生が大勢いる前でキャサリンを突き飛ばすなんて、月岡家のお嬢様のすることじゃない。教養がなさすぎる』

昨夜、侮辱されて帰ろうとしたところをキャサリンに塞がれ、仕方なく押し退けただけだ。

――教養?

月岡古雅は笑いそうになった。

嘘で腎臓を奪った男が、教養を語る?

前世の自分は、こう言った。

『崚介、ごめんなさい、すぐ行く。怒らないで……私、あなたが好きすぎて……』

埃にまみれたような卑屈さ。思い出すだけで吐き気がする。

「月岡家のお嬢様らしい教養って、なに?」

『……今なんて?』

「日本語、分からない?」

『月岡古雅、頭おかしくなったのか! よくもそんな口の利き方ができるな!』

月岡古雅はスマホを少し遠ざけ、淡々と言った。

「押すわよ。押すだけじゃない。プールに突き落として、二、三回踏みつけたいくらい」

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私が時価総額数十億ドルのファッション帝国を裏で支配していることも、ウォール街の株価をたった一回の取引で大暴落させられることも、誰も知らない。私はその正体を、この平凡で冴えない素顔の裏にすべて隠し持っていた。

さらに劇的なことに、私の実の親はこの街で頂点に君臨する最高峰の大富豪だった。

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