紹介
ソファに深く腰掛け、脚を無造作に開いた彼は、眼前に跪く私を冷たい瞳で見下ろしていた。
非情な契約によって縛られた私は、彼の快楽のための玩具に過ぎず、歪んだ遊戯の駒として弄ばれる存在へと堕ちた。矜持を噛み殺し、どれほど屈辱的な命令であろうと、私は彼の望むままにすべてを差し出した。
彼こそが、マフィアの頂点に君臨する男——たった一言で生死を定める権力を持った、億万長者。
しかし同時に彼は、アレックス・フィリップ——七年前、貧しいというただそれだけの理由で、私が冷酷に捨てた男でもあった。
かつての恋人。そして今は、私の主。
チャプター 1
オーロラ・ロス の視点
「ロス嬢。あんたみたいに綺麗な女なら、男に頼みごとをする方法くらい分かってるだろう?」
豪奢な個室。ジャックは、私の記憶にある温厚な「叔父」の顔をあっさり捨て、発情した獣みたいな目で私の体を舐め回した。隠す気もない淫欲が混じっている。
真夏のはずなのに、背筋がぞくりと冷えた。
利益こそが永遠の相棒だと、頭では分かっていた。けれど父と長年付き合いのある友人――名目上は私の叔父が、こんな言葉を吐くのを聞かされれば、失望せずにはいられない。
しかも……。
彼は、私が連絡を取れる最後の投資家だった。
手元の企画書を見つめるほど、胸の奥がじわじわと絶望に侵食されていく。
私はオーロラ・ロス。ロス・グループの一人娘。両親に宝物みたいに育てられ、支援されて海外でPhDまで取った。
――なのに。七年ぶりに帰国して待っていたのは、倒産寸前のロス・グループと、途方もない負債だった。
両親は警察に連れて行かれ、名義の資産はすべて差し押さえ。借金を埋められなければ、どれほどの刑期になるかも分からない。
一夜にして、私は家も居場所も失った。
事態をどうにかしたくて、この一か月、両親の旧友を片っ端から当たった。助けを求めた。けれど返ってくるのは拒絶か、留守電に回るコールばかり。
ジャックだけが最後の希望だった。
そして――その希望も、いま目の前で砕けた。
「すみません、ジャックさん。私、もう失礼します」
金がないからって、体で取引なんてしない。
こんなクズに縋るくらいなら、別の方法を探したほうがいい。
その瞬間、手の中の企画書が乱暴に引き抜かれた。
「バンッ!」
時間も心血も注いだそれは、ゴミみたいに投げ捨てられ、紙がぱらぱらと散っていく。ジャックはそれを靴で踏みつけた。
「このビッチが。何が清純ぶってんだよ。まだロス家のお嬢様気取りか?」
「俺が出資しなきゃ、お前なんか家畜以下の生活だぞ。俺と一回寝れば投資が手に入る。むしろ安いもんだろ」
「跪いて、口で俺のをしゃぶって、お願いしてみろよ。俺に抱かせろってな!」
偽善の仮面を投げ捨てたジャックが、私を酒卓に押し倒した。グラスががちゃがちゃと転がり、酒が跳ねる。――本気で襲う気だ。
「やめて! 触らないで!」
吐き気が脳を埋め尽くす。私は必死に暴れ、髪を掴んで引きちぎる勢いで後ろへ引いた。
「助けて! 誰か!」
叫べば叫ぶほど、ジャックは興奮を深める。
「このホテルは全部俺のもんだ。誰が助けに来る?」
首筋に顔を埋め、ぬるい舌が肌を這う。気持ち悪い。擦りつけたあと、彼は顔を上げ、口づけしようとした。私は必死で顔を背ける。
腕で押し返すのも限界だった。もう力が入らない。
お願い、誰でもいい、助けて――。
その祈りが届いたのか。
視界の端へ、赤ワインのボトルがころころと転がり込んできた。
私はそれを掴んだ。迷う暇はない。
思いきり、彼の頭に叩きつける。
「ぐぁっ!」
額から血が流れ落ちる。鋭い痛みに力が緩んだ瞬間、私は彼を突き飛ばし、扉へ走った。
分かってる。完全に怒らせた。
追いつかれたら、もう逃げられない。
心臓が暴れる。ドアノブをねじって廊下へ飛び出した。
「このクソ女!」
「必ず痛い目見せてやる!」
背後の怒鳴り声で全身が張り詰め、息をするのも忘れそうになる。
もっと速く。
捕まるな。絶対に。
角を曲がった先、廊下の突き当たりに、背の高い男の後ろ姿が見えた。
銀色の髪。まっすぐ伸びた背。まくった袖から覗く蜜色の前腕は筋肉が盛り上がり、浮いた血管が生々しい色気を放っている。
ベルベットの赤い絨毯を、革靴が静かに踏む。
一九〇近い長身が、圧を生む。
ゆったり歩き、身の回りの騒ぎなど気にも留めない。
なぜか――この背中が、妙に懐かしい。
でも考える余裕はない。
「お願いです、助けて!」
私は必死に声をかけ、背中へ駆け寄った。
銀髪の男が足を止めた、その瞬間。
腕が引きちぎれそうに痛む。
追いついたジャックが、怒りで顔を歪め、私を乱暴に引き倒した。床に転がる。
胸がぎゅっと縮む。私は、唯一の救いに縋るように叫んだ。
「お願い!」
助けて――。
祈る視線の先で、その男がゆっくり振り返った。
廊下の最奥。装飾の蝋燭の灯が背後に揺れて、彼の輪郭に淡い光を纏わせる。
高い身長。彫刻みたいな整った顔立ち。黒いシャツは上のボタンが二つ外れ、覗く筋肉の線が無造作で、ひどく挑発的だった。
角から無数のボディガードが現れ、彼の背後に列を作る。
碧い瞳が細められ、私を見据える。今の自分がどれだけ惨めな姿か、想像できてしまって、体が固まった。
――知っている。
正確に言えば、嫌というほど知っている。
アレックス・フィリップ。
七年前、私が別れを告げた元恋人。
最新チャプター
#160 第160章 疑わしい関係
最終更新: 9/21/2026#159 第159章 彼はセイレーンのようだ
最終更新: 9/21/2026#158 第158章 きれいな男
最終更新: 9/21/2026#157 第157章 少し気をつけろ
最終更新: 9/21/2026#156 第156章 彼らは行けない
最終更新: 9/21/2026#155 第155章 彼は彼女を否認した
最終更新: 9/21/2026#154 第154章 罪悪感
最終更新: 9/21/2026#153 第153章 偶然
最終更新: 9/21/2026#152 第152章 まだ聞き始めていない
最終更新: 9/21/2026#151 第151章 狂信者
最終更新: 9/21/2026
おすすめ 😍
真の令嬢は万の顔を持つ
傲慢な御曹司・羽島浩介が彼女を救うために骨折し、白石家のお爺さんが彼女を跡継ぎとして認め、林原財閥が彼女の本当の身分を明かした時――なんと、あの見下されていた「田舎者」こそが、真の商業帝国の後継者だったのだ!
そして、かつて高みから見下ろしていた偽物のお嬢様は、盗作しかできない道化に過ぎなかった。
全ての仮面が剥がれ落ちた時、全世界が彼女の足元で震撼する――。
運命のゲーム
フィンレイが彼女を見つけたとき、彼女は人間の中で暮らしていた。彼は自分の存在を認めようとしない頑固な狼に心を奪われる。彼女は彼の運命の相手ではないかもしれないが、彼は彼女をパックの一員にしたいと思う。潜在的な狼であろうとなかろうと。
アミーは彼女の人生に入り込み、パックの生活に引き戻すアルファの魅力に抗えない。彼女は長い間感じなかった幸せを見つけるだけでなく、ついに彼女の狼も目覚める。フィンレイは彼女の運命の相手ではないが、親友になる。パックの他のトップ狼たちと共に、彼らは最高で最強のパックを作るために働く。
パックの順位を今後10年間決定するパックゲームの時が来ると、アミーは古いパックと向き合わなければならない。10年ぶりに彼女を拒絶した男性を見たとき、彼女が知っていたと思っていたすべてが覆される。アミーとフィンレイは新しい現実に適応し、パックのための道を見つける必要がある。しかし、この予想外の展開は彼らを引き離してしまうのだろうか?
人生を謳歌する
追放された私が真の継承者だった件。今さら戻れと言われても、もう手遅れです
けれど、私の本質を隠し通すことは誰にもできない。
隠された私の正体は、この国で最も裕福な一族の継承者。
かつての家族が私を見失っている間に、私は全ての支配者となり、この街の頂点に君臨する男の視線を独占する。
彼が私に捧げる愛は、ただの寵愛ではない――世界を敵に回してでも守り抜く、狂おしいまでの執着だ。
夫と息子に捨てられた私は、幸福という名の檻を抜け出すことにした
しかし現実の結婚生活は、私を泥のような惨めな境遇へと引きずり落とした。
夫と息子にとって、私は愛人の飼い犬にさえ劣る存在でしかなかったのだ。
離婚届に淡々と署名する二人の姿を前に、私の心は不思議と静まり返った。
「そう、それでいいわ」
最後に乾いた笑みを浮かべ、私は決別を告げる。
今日で、私たちは正真正銘の赤の他人。
天才デザイナーの私と三つ子を、大富豪は取り戻したい
屈辱に塗れ、身一つで夜逃げするように国を去った私は、その後に彼の「三つ子」を身ごもっていることに気づく。
――6年後。
私は世界に名を馳せる天才デザイナーとなり、奪われたすべてを取り戻すために帰国した。
しかし、悪辣な嘘に目を曇らされた知暁は、私を激しく憎み、「仇敵」として冷酷に立ちはだかる。
やがてすべての真実が白日の下に晒された時、彼は己の過ちに絶望し、プライドを捨てて泣きながら私に許しを乞うた。
だが、傷つけられた私の心はもう戻らない。私は彼の懇願を、冷徹に突き放した。
――もう遅いわ。あなたを一生、許すつもりはない。
そう誓ったはずの私だったが、予想だにしない誤算があった。
私たちが産んだ愛らしい三つ子たちが、今さら戻りたいと泣く父親の、まさかの最強の味方として動き出したのだから。
全能令嬢の帰還、家族が倒産?
父は冤罪で獄中にあり、母は病に伏せっている。
六人の兄たちも、ある者は身体に障がいを負い、ある者は無気力に沈んでいた。
そんな折、家に潜り込んでいた偽令嬢は状況を見るや否や一家を見捨てて姿を消し、さらに屋敷までも奪い取ろうとしていた。
世間は夏川家を「落ち目の負け犬」と嘲笑い、皆がこぞって踏みにじる。
紅蓮が静かに一声を発すれば、暗部より無数の異能の士たちが姿を現し、形勢は一瞬にして逆転する。
父は無実のまま出所し、母は健康を取り戻し、廃人同然だった長兄は再び己の足で歩き出し、残る五人の兄たちもまた紅蓮の導きによって各々の才覚を花開かせ、やがて各界を牽引する大物へと成り上がっていく。
しかし、そんな彼女を指さして嘲る者がいる。
「夏川紅蓮は地味で野暮ったい田舎者だ」と。
何を隠そう、彼女は無数の隠された顔を持つ存在。
神医の令嬢も彼女なら、国画の大家も彼女。
伝説のハッカーも彼女なら、正体不明の謎の女優も彼女。
そして、暗部を統べる首領さえも——彼女なのだ。
そんな折、頂点に君臨する名門の若様が、彼女をそっと腕のなかに抱き寄せた。
「誰が彼女を田舎くさい地味女だと言った? 彼女こそ、俺・諏訪淳行の婚約者だ」
紅蓮が流し目をひとつ送る。
「婚約、破棄しなくていいの?」
「しない」
彼が長いあいだ追い求めてきた決して手の届かない高嶺の花こそが、いま腕のなかにいる婚約者なのだ。
解消などありえない——この婚約は、死んでも解消しない。
双子とヤクザの父親
六年の月日が流れ、二人は思いがけず再会する。彼女は必死に彼から距離を置こうとするが、運命は異なる計画を用意していた。
驚くべきことに、彼は突然現れ、彼らの愛らしい子供を抱きしめながら、大胆に彼女に詰め寄る。「俺たちの子供を産んでおいて、逃げられると思ったのか?」
彼女は凍りついたように立ち尽くし、言葉を失う。彼こそ、畏怖の念を抱かせる帝国の君主だった。彼女は二人の世界があまりにもかけ離れていて、決して交わることはないと思い込んでいた。
しかし、彼女は知らずのうちに、この不屈の王の真実の愛となっていたのだった。
長年の結婚生活を終わらせたら、夫と息子が泣きついてきた
あの女のために、何度も私を置き去りにした二人。そして今回の件で、私はようやく完全に目が覚めた。
彼らは、私の愛を受け取るに値しない。
だから私は、正式に離婚協議書を差し出した。
すると、あろうことかこの二人は、声を揃えてこう言ったのだ。
――本当に深く愛していたのは、私の方だった、と。
ふん、今さら一体、何の真似のつもりかしら。
離婚後、奥さんのマスクが外れた
彼は言った。「彼女が戻ってきた。離婚しよう。君が欲しいものは何でもあげる。」
結婚して2年後、彼女はもはや彼が自分を愛していない現実を無視できなくなり、過去の関係が感情的な苦痛を引き起こすと、現在の関係に影響を与えることが明らかになった。
山本希は口論を避け、このカップルを祝福することを選び、自分の条件を提示した。
「あなたの最も高価な限定版スポーツカーが欲しい。」
「いいよ。」
「郊外の別荘も。」
「わかった。」
「結婚してからの2年間に得た数十億ドルを分け合うこと。」
「?」
竜王の花嫁
偉大なるイグナス王国を形づくる七つの村では、毎年欠かさず「選定の儀」が執り行われていた。その儀で村の娘のひとりが選ばれ、恐るべき竜王の花嫁となるのだ。
なぜそんな儀を年ごとに続けるのか、誰にもわからない。これまで選ばれていった花嫁たちが、その後どうなったのかも――。
奴隷にされているのか?
竜の餌にされているのか?
それとも……竜王自身が、彼女たちを喰らっているのか?
それだって否定はできない。王は自分たちとは違う、人ではないのだという噂があるのだから。
それでも、その疑問は執念深く人々の胸を苛んだ。
いったい、花嫁を何に使っているのか――!?
だが、誰も王に問いただそうとはしなかった。逆らうなどという無謀が、どんな運命を呼び込むかが怖かったのだ。
もっとも、そんなことはベラドンナの知ったことではない。今年は彼女の村が花嫁を差し出す番だったが、自分が選ばれるはずがないと彼女は確信していた。
なぜかって?
もちろん、計画があるからだ。そして彼女は、その計画が自分を裏切るはずがないと信じ切っていた……いや、本当にそうだろうか。
冷酷非道な大物との政略結婚を強いられ、私は開き直った
ヤクザの家に生まれた宿命を恐れるあまり、私は幼馴染の周防文哉のもとへ逃げるように嫁いだ。
けれど結婚から五年――私は家畜のように囚われ、夫とその愛人に蹂躙され続けた。息絶えようとするその瞬間、最後に目に映ったのは、私の目の前で絡み合う二人の姿だった。
【転生】
再び目を開けると、婚約が公の場で発表されたあの瞬間に戻っていた。
周防文哉が愛おしそうに私を見つめ、優しく囁く。
「俺と結婚してくれ。」
次の瞬間――若きヤクザの組長が私の腕を掴み、力強く抱き寄せた。銃口は真っ直ぐ周防文哉に向けられている。
彼が、私の代わりに答えた。
「――断る」













