あのキャプテンのベッドに潜り込む

あのキャプテンのベッドに潜り込む

渡り雨 · 完結 · 18.8k 文字

369
トレンド
388
閲覧数
3
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

私が三年間も想い続けてきた幼なじみ、川澤貴利は、いまクラブのパーティーで私の『妹』と熱いキスを交わしている。

みんな、私が今までみたいに、泣きながら飛び出して行って、みっともなく彼にすがりつくのを待っている。

でも今回は、私はただ二階の階段の踊り場に立って、この茶番劇を冷めた目で見下ろしていた。

前の人生の私は、このクズ男のために命まで捨てた。

だから今度の私は、シャンパンをやつの顔面にぶちまけて、そのまま踵を返し、彼の親友――アイスホッケー部のキャプテン・竹越政司のベッドにもぐり込むことにした。

貴利なんか、くたばればいい。

チャプター 1

杏奈の視点

 川澤貴利が、私の「妹」――理恵の口の中へ舌をねじ込んでいた。

 アルファ・シグマクラブの別荘。EDMの重低音が床を揺らし、靴底までビリビリ震わせる。

 私は二階、階段の踊り場に立ったまま、一階のリビング中央で繰り広げられる吐き気のする光景を見下ろしていた。

 川澤貴利――S市立高校でいちばん人気のクォーターバック。私が三年間追いかけ続けた男――が、鈴原理恵を壁に押しつけてキスしている。

 掌は彼女の尻にべったり張りつき、今にも抱え上げそうな勢いだ。

 理恵。鈴原家から十七年も離れていた本物の娘で、名目上は私の妹。彼女は貴利の首に腕を絡め、発情した猫みたいに身体をくねらせていた。

 取り巻きが悲鳴みたいに歓声を上げ、囃し立てる。

「貴利と理恵、ついに付き合ったんだって!」

「杏奈の貢ぐ係、まだ知らねーだろ? ははは!」

「本物は本物だよな。偽物が勝てるわけないじゃん」

 偽物。

 それが――私のこと。

 三か月前、理恵が見つかった。鈴原家は大騒ぎで、失くした宝物が戻ったみたいに浮かれていた。

 そして私は、十七年この家にいた養女。ある日を境に「席を奪っていた偽物」になった。

 みんなの態度が、一晩で変わった。

 貴利も変わった。

 理恵と「偶然」を装って会う回数が増え、私の目の前で平然と媚びる。問い詰めれば決まって言うのだ。「おまえの妹だろ。もっと大人になれよ」

 前の人生の私は――本当に大人になってしまった。

 二人の生々しいやり取りを耐え、学校中の嘲笑を耐え、養父母の露骨な偏りを耐えた。

 そして卒業パーティーの夜。貴利は皆の前で宣言した。理恵こそが自分の彼女だと。

 私は暗い備品室に一晩閉じ込められ、翌朝ふらふらと校門を飛び出して、制御を失ったトラックにはね飛ばされた。

 死ぬほどの痛みが、いまだ骨の奥にこびりついている。

 三十分前、私はその悪夢から飛び起きた。二階の客室のベッド。全身、冷汗でびしょ濡れ。

 そして階下から、歓声が聞こえた。

 階段へ向かい――この光景を見た。

 前の人生の私なら、泣きながら駆け下りて詰め寄り、貴利の前にひざまずいて縋っただろう。

 でも今回は――

 ふざけるな。

 私はバーカウンターに置かれたシャンパンを掴み、ゆっくり階段を下りた。

 騒がしかったリビングが、すっと静まり返る。視線が一斉に私へ刺さった。

 貴利がようやく理恵を離し、振り向く。

 私を見た瞬間、口元を歪めて得意げに笑い、唇についた口紅の跡を指で雑に拭った。

「杏奈。やっと降りてくる気になったか?」

 両腕を広げ、施しみたいな口ぶりで言う。

「こっち来いよ。理恵に謝れ。今日、おまえが八つ当たりした件はそれでチャラにしてやる」

 私は、彼から三歩離れたところで足を止めた。

 理恵が下唇を噛み、目を赤くする。

「杏奈……私、貴利を誘惑したわけじゃ……貴利が先にキスして……でも、本当に好きになっちゃって……ごめんなさい……」

 周囲でひそひそ声が起きる。

「杏奈、また泣くんじゃね?」

「どうせこのあと土下座だろ」

 貴利が理恵をさらに強く抱き寄せ、額に軽くキスを落とした。

「そんな言い方すんなよ、理恵」

 吐き気がするほど甘い声。

「俺と杏奈は、最初からそういう関係じゃねえんだ。あいつが三年も一方的に追ってきただけ。俺がどうしろってんだよ」

 そして私へ視線を向け、苛立ちを隠しもしない。

「杏奈、おまえもいい加減目ぇ覚ませ。俺、最初からおまえと付き合うなんて言ってねえ。追うのは勝手だが、俺と理恵の邪魔すんな」

 前の人生の私は――この言葉で、ひざまずいた。

 みんなの前で泣いて、もう一度だけチャンスをくれって縋った。

 でも今は――

「貴利」

 私が呼ぶ。

 貴利が眉を上げ、勝ち誇った笑みを深くする。

「なんだよ。やっと自分が悪いって分かったか?」

「うん、分かった」

 私は頷き、彼へ一歩踏み出した。

 貴利の笑みがさらに広がる。

「だったらさっさ――」

 言い終える前に、私はシャンパンを丸ごとぶちまけた。

 黄金色の液体が貴利の頬を伝って滴り落ち、仕立ての白いシャツをぐっしょり濡らす。

 理恵が甲高く叫んだ。メイクが一瞬で崩れ、みすぼらしく濡れ鼠みたいになる。

 場が、凍りついた。

「私が間違ってたのは、三年もあんたを追ったこと」

 空になったグラスを置く。

「それと――あんたを人間扱いしたこと」

 貴利は二秒固まり、次の瞬間、顔の酒を乱暴に拭った。額に青筋が浮く。

「杏奈! てめぇ、頭おかしいのか?!」

 掴みかかろうとする手から、私は半歩だけ退く。

「すごく正気」

 私は目を上げ、怒りで濁ったその瞳を真正面から受け止める。

「今日から、もう追わない」

「……は?」

 貴利が信じられない、という顔で私を睨む。

「言ったでしょ」

 一語ずつ噛みしめるみたいに告げる。

「私たち、ここで終わり。縁を切る。聞こえた? 川澤貴利」

 周囲から息を呑む音が漏れた。

 貴利の顔が真っ赤になる。

「おまえ、自分が何様だと思ってんだ! 今日このドア出たら、あとで土下座して頼んでも――俺は二度とおまえなんか見ねえ!」

「それが理想」

 私は笑った。

「どうぞお幸せに。本物のお姫様と、末永くお似合いで」

 言い捨てて踵を返す。背後の怒鳴り声など気にも留めず、私は深秋の冷たい雨の中へ踏み出した。


 冷たい風が雨粒を連れて顔を叩き、Tシャツを容赦なく濡らしていく。

 なのに、胸は軽かった。こんなにも自由だなんて。

 前の人生の私は、貴利を繋ぎ止めるために、鈴原家から捨てられないために、埃の中まで這いつくばった。

 その結果が、卒業パーティーでの公開処刑と、命を奪った事故。

 もう二度と、同じ道は歩かない。

 私は雨の中でスマホを取り出し、連絡先の奥に眠っていた、これまで一度もかけたことのない番号を選ぶ。

 竹越政司。

 S市立高校アイスホッケー部の主将。校内における、もうひとつの極端。

 冷淡で、荒っぽい。理事ですら顔色を窺うという、財閥の御曹司。

 前の人生で、貴利が私を皆の前で侮辱したとき。政司は氷みたいな顔で、貴利に「出ていけ」と言い放った。

 それから間もなく、仲のいいはずの二人は完全に決裂した。

 理由は――死ぬまで分からなかった。

 ただ、覚えている。

 私の貧相な葬儀に来たのは、たった一人。彼だけだった。

 発信を押す。

 コールが三回。繋がった。

 受話口から、低い男の声。

「用件」

「政司、雨がひどいの」

 一拍置いて、言った。

「アルファ・シグマクラブの外で足止め食らってる。迎えに来てくれない?」

最新チャプター

おすすめ 😍

つわり発覚!? 禁欲上司に甘やかされすぎて、胸キュンが止まりません!

つわり発覚!? 禁欲上司に甘やかされすぎて、胸キュンが止まりません!

27.4k 閲覧数 · 連載中 · 佐伯綾子
結婚3周年の記念日、私は妊娠検査薬の書き込み(結果)をプレゼントとして夫に贈った。だけど、返ってきたのは1枚の写真――女の胸に添えられた、男の手。その指に光る結婚指輪が、すべてを物語っていた。

それは私の夫の手。――彼は、浮気をしていた。
彼女を誘惑して、一夜で虜になった

彼女を誘惑して、一夜で虜になった

80.9k 閲覧数 · 連載中 · 月見光
結婚して三年——
彼は毎晩、私を抱きながらも、心はいつも“好きな人”にあった。
私は必死に「今泉夫人」としての役目を果たし、
愛のない結婚を繋ぎとめようとしていた。

けれど、妊娠がわかったあの日——
最愛の夫は私を手術台に押しつけて言った。
「小島麻央、子供とお前、どちらかしか生かせない。」
その言葉で、私の世界は雲散霧消した。粉々になった心を抱えて、私はすべてを捨てて去った。
──再会した時、
私はもう、かつての小島麻央ではなかった。
世界を驚かせるほど、美しく、強く、生まれ変わったのだ。跪く元夫が囁く。「麻央、帰ってきてくれ……」私は微笑んで答えた。「ごめんなさい。もう男には興味ないの。」その瞬間、彼は私を抱き寄せ、低く笑った。
「昨夜の君は、そうは言わなかっただろ……?」
溺愛令嬢の正体は、まさかの霊能界トップ!?

溺愛令嬢の正体は、まさかの霊能界トップ!?

262.4k 閲覧数 · 連載中 · 朝霧祈
原口家に取り違えられた本物のお嬢様・原田麻友は、ようやく本家の原田家に戻された。
──が、彼女は社交界に背を向け、「配信者」として自由気ままに活動を始める。
江城市の上流社会はこぞって彼女の失敗を待ち構えていた。
だが、待てど暮らせど笑い話は聞こえてこない。
代わりに、次々と大物たちが彼女の配信に押しかけてくるのだった。
「マスター、俺の命を救ってくれ!」──某財閥の若社長
「マスター、厄介な女運を断ち切って!」──人気俳優
「マスター、研究所の風水を見てほしい!」──天才科学者
そして、ひときわ怪しい声が囁く。
「……まゆ、俺の嫁だろ? ギュってさせろ。」
視聴者たち:「なんであの人だけ扱いが違うの!?」
原田麻友:「……私も知りたいわ。」
転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

320.1k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
婚約者が浮気していたなんて、しかもその相手が私の実の妹だったなんて!
婚約者にも妹にも裏切られた私。
さらに悲惨なことに、二人は私の手足を切り落とし、舌を抜き、目の前で体を重ね、そして私を残酷に殺したのです!
骨の髄まで憎い...
しかし幸いなことに、運命の糸が絡み合い、私は蘇ったのです!
二度目の人生、今度は自分のために生き、芸能界の女王になってみせる!
復讐を果たす!
かつて私をいじめ、傷つけた者たちには、十倍の報いを受けさせてやる...
今さら返してと言われても、私はもう最強一家の娘です

今さら返してと言われても、私はもう最強一家の娘です

4k 閲覧数 · 連載中 · ^野田恵^
シェリーは一度、高貴なるライアン公爵家に裏切られ、惨めに命を落とした。

――だが目覚めると、5歳児の姿に返っていた。
今世こそ冷酷な貴族の手から逃れ、平穏に生きるのだ。そう誓った彼女は、孤児院の斡旋リストから、最も害のなさそうな「退屈で平凡な男」を新しい父親に指名した。

それが、人生最大の計算違いになるとも知らずに。

新しく父親になったサイラスは、裏社会の生ける伝説と呼ばれる【最強の殺し屋】。
母親は、引退した【超一流の暗殺者】。
兄たちは、国を揺るがす【狂気の天才科学者】と、歩く人間兵器な【最凶の武闘派】。
――ようこそ、世界で最も物騒な「普通の家族」へ。

かつての実家が消えたシェリーを必死に捜索する裏で、彼女は文字を習うより先に、銃の分解方法を叩き込まれていた。
彼女のために世界を火の海にできるほどの怪物の家族に囲まれ、かつての脆く儚い令嬢はもうどこにもいない。

彼女は家族に全肯定され、狂愛される「怪物ちゃん」。
かつて自分を捨てた傲慢な貴族どもを、今度はその牙で、完膚なきまでに噛み砕く番だ。
離婚後、ママと子供が世界中で大活躍

離婚後、ママと子供が世界中で大活躍

180k 閲覧数 · 連載中 · yoake
18歳の彼女は、下半身不随の御曹司と結婚する。
本来の花嫁である義理の妹の身代わりとして。

2年間、彼の人生で最も暗い時期に寄り添い続けた。
しかし――

妹の帰還により、彼らの結婚生活は揺らぎ始める。
共に過ごした日々は、妹の存在の前では何の意味も持たないのか。
不倫夫を捨てた夜、私は新しい彼に抱かれる

不倫夫を捨てた夜、私は新しい彼に抱かれる

2.1m 閲覧数 · 連載中 · 七海
初恋から結婚まで、片時も離れなかった私たち。
しかし結婚7年目、夫は秘書との不倫に溺れた。

私の誕生日に愛人と旅行に行き、結婚記念日にはあろうことか、私たちの寝室で彼女を抱いた夫。
心が壊れた私は、彼を騙して離婚届にサインをさせた。

「どうせ俺から離れられないだろう」
そう高をくくっていた夫の顔に、受理された離婚届を叩きつける。

「今この瞬間から、私の人生から消え失せて!」

初めて焦燥に駆られ、すがりついてくる夫。
その夜、鳴り止まない私のスマホに出たのは、新しい恋人の彼だった。

「知らないのか?」
受話器の向こうで、彼は低く笑った。
「良き元カレというのは、死人のように静かなものだよ?」

「彼女を出せ!」と激昂する元夫に、彼は冷たく言い放つ。

「それは無理だね」
私の寝顔に優しくキスを落としながら、彼は勝ち誇ったように告げた。
「彼女はクタクタになって、さっき眠ってしまったから」
本物令嬢の正体がばれました

本物令嬢の正体がばれました

127.3k 閲覧数 · 連載中 · ワニノコ
新谷南は新谷家で二十年も育てられたのに、本当の娘が戻ってきた途端、あっさり家を追い出された。

デザイン部のディレクターの席? 本当の娘へ。
何千万円もの価値がある婚約話? 本当の娘へ。

会社中の人間が、彼女という「野良扱いの娘」がどう転げ落ちていくか、笑いものにしようと様子をうかがっていた。

そんなある日、世界限定二十台の高級バイクが会社の前に止まる。降りてきた不良っぽいイケメンが言った。

「妹、兄貴と一緒に帰るぞ」

新谷家の人間「……は?」

そのあとで彼らはようやく知ることになる。

彼女こそ、国内外の美術館の館長たちが面会待ちの列を作る「南先生」と呼ばれるアーティストであり、
新谷グループの全受賞特許の名義人であり、
さらに、伝説の「国家並みの資産を持つ」と噂される周防家の、本当の長女だということを。

大手財閥の若き当主は、封印していた婚約書を取り出し、薄く唇を吊り上げる。

「なるほど。俺の本当の婚約者は、君だったわけか」
舐めるつもり?なら、思い知らせてあげる

舐めるつもり?なら、思い知らせてあげる

24.3k 閲覧数 · 連載中 · 桜井 ゆい​
18年間、自分が実の娘でないとは知らずに生きてきた。ある日、荷物をすべて玄関の外に放り出され、街角に立ち尽くす私の前に現れたのは、噂では極貧だという「生家」から迎えに来た、見たこともない「兄」。

ところが、その兄が乗ってきたのはトラクターだった。

ガタガタと揺れるトラクターがたどり着いた先は、まるで古城のような大邸宅。そこで私は思い知る。本当の家族のもとに引き取られた私は、貧しくなるどころか、前よりずっと裕福になっていたのだ。

……だが、ちょっと待ってほしい。なぜ私には突然、婚約者というものが存在するのか。しかもその相手は、私の大学の教授だという。誰か、説明してくれないだろうか。
偽物令嬢の逆転劇

偽物令嬢の逆転劇

71.9k 閲覧数 · 連載中 · ひかり
「泥棒女め、今すぐこの家から出て行きなさい!」

実の娘が戻ってきたその日、私はゴミのように家を追われた。
病弱な「お嬢様」の生きる輸血パックとして虐げられ、血を搾り取られ続けてきた日々。用済みになった途端、身に覚えのない盗みの罪を着せられ、婚約者からも冷酷に捨てられた。
元家族たちは、私が「貧しい田舎で野垂れ死ぬ」と信じて疑わなかった。

だが、彼らは何も知らなかったのだ。
私が、世界中のVIPが縋る伝説の名医であることも。
私を迎えに来たオンボロトラックが、実は国家機密級の超高級カスタムマシンであることも。
そして、私の本当の実家が、国さえも動かす世界屈指の超巨大財閥だということも!

「今まで苦労をかけたね、私たちの可愛いお姫様」
生き別れていた超過保護な両親と、各界の頂点に君臨する最強の兄たちに狂おしいほど溺愛されるシンデレラライフが幕を開ける!
一方、大切な「命の恩人」を自ら捨てた元家族たちには、破滅へと向かう絶望の後悔タイムが待ち受けていて!?

虐げられた天才少女が本当の愛と富を掴み取る、逆転ファンタジー、ここに開幕!
社長、突然の三つ子ができました!

社長、突然の三つ子ができました!

261.3k 閲覧数 · 連載中 · キノコ屋
五年前、私は継姉に薬を盛られた。学費に迫られ、私は全てを飲み込んだ。彼の熱い息が耳元に触れ、荒い指先が腿を撫でるたび、震えるような快感が走った。

あの忌まわしい夜から逃げるように去った私だったが、ほどなくして三つ子を妊娠していることに気付く。

五年後、医療界の新星として戻ってきた私は、継母、継姉、実の父へ全ての仕返しを誓う。

その時、彼が現れた。三人の小さな自分そっくりの顔をじっと見つめながら、優しく「パパ」と呼ぶよう子供たちを誘う彼。

ふとシャツのボタンを外し、悪戯っぽく笑って言った――

「どうだい、あの夜の熱をもう一度味わってみないか?」
自己犠牲はもうおしまい。虐げられた養女の反撃

自己犠牲はもうおしまい。虐げられた養女の反撃

10.2k 閲覧数 · 連載中 · 神楽
丸十五年もの間、涼宮寧音の人生は、ただ一つの残酷な目的のためにあった。
――病弱な義妹のための「生きる血袋」として仕えること。

健康も、才能も、尊厳も、そのすべてを捧げて尽くしてきた。しかし、必死に媚びへつらい、 縋り付いてきた家族から彼女に返されたのは、冷酷な裏切りと追放だった。

彼女の最初の人生は、あまりにも惨めな悲劇で幕を閉じる。
底知れぬ悔恨のなか、彼女は高層ビルから身を投げたのだった。

――だが、運命は彼女に二度目のチャンスを与えた。

二十三歳の誕生日の朝、目を覚ました寧音は誓う。もう二度と、理不尽に耐え忍ぶだけの犠牲者にはならない、と。

彼女は、毒親と義妹が巣喰う涼宮家を毅然と離脱。彼らが決して奪うことのできない、自分だけの唯一無二の武器――非凡なる「デザインの才能」を手に、新たな世界へと飛び込む。

その圧倒的な輝きは、政財界に絶対的な権力を誇る最高経営責任者、伏見盛重の目を引いた。彼は同情という名の施しではなく、対等なビジネスパートナーとして、彼女に救いの手を差し伸べる。

いまや寧音は、ただ生き延びるために足掻く哀れな女ではない。

自らの人生を狂わせた「家族」を冷徹に、一歩ずつ破滅へと追い詰めながら、彼女は愛する実母の死の真相へと迫っていく。