紹介
世界を震撼させる最強のエージェント。
国際的に名を馳せる天才怪盗。
卓越した戦闘能力と頭脳を持ち、裏社会すら自在に操る謎の女。
そんな彼女が、ある任務を終えたあと両親とともに帰国した。
そして今、彼女は名門の令嬢として、誰もが羨む平凡な令嬢を演じている。
「名門令嬢のくせに、礼儀も知らない田舎娘」
「帰国前は、どこかの大富豪の愛人だったらしい」
姉や祖父からも見下され、家族からは徹底的に追い詰められる。
さらに、彼女の過去を暴こうと、名門令嬢たちまで次々と動き始めた。
だが彼女は、そんな噂を聞いてもただ微笑む。
「……身の程知らずね」
ところが、彼女の過去を調べれば調べるほど、誰もが驚愕する事実が次々と明らかになっていく。
世界格闘技の頂点に立つチャンピオン。
世界中に名を知られる天才ハッカー。
国家最高機密に指定された特級エージェント。
そして、最強の戦神さえも手玉に取った、伝説の女怪盗。
そのすべてが、彼女だった。
その瞬間、世間は騒然となる。
名門も、もはや平静ではいられない。
一方、そんな彼女を追い続けていた男がいた。
世界最強と称される戦神。
普段は冷徹そのものの彼が、ある夜、彼女の前でだけその仮面を外す。
「俺の心まで盗んだんだ……どうやって返してくれる?」
神出鬼没の怪盗と、冷徹な戦神。
逃げる彼女と、追いかける彼。
二人の攻防戦が、今始まる……
【怪盗VS戦神】
【最強同士の恋愛バトル】
チャプター 1
「ピピピッ!」
「全員、警戒!」
「コードネーム『フォックス』、サザビーズに出現! 今夜の標的は――数々の伝説に彩られた秘宝『紅瑪瑙』だ!」
「絶対に逃がすな!」
「全員、警戒!」
Y国ロンドン。真夜中のニュー・ボンド・ストリートに、けたたましいサイレンが唸りを上げた。
世界最上級の精鋭と名高い王立特殊作戦部隊が、最高レベルの武装で出動。オークション会場の外は、文字どおり水も漏らさぬ包囲網。
――だが、誰も知らない。
会場の中では、すでに薄い靄が漂い、富豪も警備もスタッフも、みな床に倒れ伏していたことを。
怒りと恐怖で見開かれた無数の視線。その中心にいたのは、招待客として入場していた一人の女だった。黒いベルベットのイブニングドレス。妖艶で、なおかつ優雅。
彼女は慌てる素振りひとつ見せず、ハンドバッグから防毒マスクを取り出す。手慣れた動きで顔に装着すると――
ふんふん、と鼻歌まじりに。十数センチのピンヒールをコツコツ鳴らしながら、オークション台へ上がった。
そして次の瞬間。
髪に挿していたヘアピンを抜き取り、ぽきりと折って細い金属線にする。『紅瑪瑙』が収められた金庫のダイヤル錠へ差し込んだ。
「カチッ」
世界に誇る難攻不落の錠が、あっさり開く。
事情を知らない者が見れば、世間知らずの名門令嬢が気まぐれに舞台へ上がった――そう見えるだろう。
「皆さま、ほんっとうにごめんなさい」
女は口元を吊り上げ、監視カメラへ小さく微笑む。
「一晩付き合わせちゃったわね。じゃあ――お宝は遠慮なくいただくわ」
「おやすみ」
そう言い放つと、紅瑪瑙を堂々と掌へ収めた。
そう。彼女こそ、各国の大統領府も、政財界の大物の邸宅も、軍火商の豪邸も、自分の庭のように出入りする――世界一の怪盗。
『フォックス』。
出自は不明。雇い主も不明。
ただ、特工としては狐のように狡猾で、怪盗としては世界を荒らし回る。
国際地下世界で唯一、S級最上位の“災厄”として恐れられる危険人物。
けれど外の人間は知らない。
彼女には、記憶の奥底に埋めた本当の名がある。
――桐生椿。
「椿……椿……」
幼い頃、実の母が寝かしつけるときに囁いた、あの柔らかな声。
年月が遠すぎて、覚えているのは母の微笑みだけ。身の上に繋がるものは、何ひとつ思い出せない。
桐生椿は紅瑪瑙を手に入れると、いつものように撤収の機をうかがった。
だが――背を向けた、その瞬間。
「パンッ!」
突如の銃声が静寂を裂く。
椿は反射で身を捻った。弾丸は耳元すれすれを掠め、背後の花瓶を正確に粉砕する。
「フォックス。今日はもう逃がさない」
低い男の声。
次いで、会場二階から一つの影が跳び降りた。
黒い戦闘服が、鍛え抜かれた筋肉の線を浮かび上がらせる。身長は一八八。抗いようのない圧が、空気ごと押し潰す。
整った顔立ちには、容赦のない殺気が張り付いていた。
男の顔を認めた椿は、目を細める。
「へえ。誰かと思ったら――戦神じゃない。久しぶりね」
九条蓮。世界最強、最恐とまで噂される男。
彼の追跡から逃げ切った者はいない――そう言われている。
実際、フォックスである彼女も、すでに三度、痛い目を見ていた。
誇張抜きで、九条蓮は彼女の怪盗人生における最大の天敵。
それでも彼女は、彼の目の前で五十八件もの文物を奪ってきた。
彼の権威を踏みにじったのだ。つまり――この男は、彼女に執着している。
「でも悪いわね。今日の紅瑪瑙は、どうしても持っていくの」
椿は笑みを消し、手首を翻す。銀針が雨のように飛んだ。
九条蓮は瞬時に身を躱す。
その隙に椿はオークション台へ跳び、身を翻して二階へ。
「追え!」
九条蓮が眉を寄せ、イヤーマイク越しに命じる。
「全出口を封鎖しろ!」
こうして、激しい追走劇が長廊下で始まった。
動く椿は、狡猾な狐そのもの。十数センチのヒールにタイトなドレスでも、速度も身のこなしも落ちない。
背後から九条蓮が執拗に迫る。
階段室で交錯した瞬間、椿が笑いながら言った。
「ねえ九条閣下。アジアから北米、今度はヨーロッパまで――ずっと私を追い回してさ」
「まさか、一目惚れでもした?」
戯けた口調とは裏腹に、拳と脚は容赦なくぶつかり合う。
九条蓮は終始、冷え切った顔。
「くだらん。物を渡せ」
椿は後方宙返りで拘束を外し、ついでに彼の手首を蹴り上げる。
銃が床に落ち、乾いた音を立てた。
九条蓮は戦法を切り替えた。近接戦へ。堅実で、鋭い。軍人特有の殺気が一撃ごとに宿る。
じわじわと椿を追い詰め、逃げ場を削る。
狙いは読めた。
椿は太腿から隠していた短刀を抜く。刃を下に向け、九条蓮へ突き込んだ。
刃と拳影が交差する。
そして――
椿の刃が九条蓮の袖を裂き、細い血の筋を作った。
同時に九条蓮が彼女の細い手首を掴み、力任せに捻る。
「カラン!」短刀が落ちた。
「フォックス。――確保だ」
息を荒げながら、九条蓮が告げる。
だが椿は笑った。
「へえ? そうかしら」
次の瞬間、もう片方の手がふっと上がり、手首の下に隠していた閃光弾が床へ転がる。
眩い光。濃い煙。
廊下が一瞬で白く塗り潰された。
九条蓮は反射で目を閉じ、開いたときには――椿の姿は、もうない。
「……クソッ!」
九条蓮が壁を殴る。
そのとき、彼は気づいた。袖の内側に、いつの間にかトランプが一枚差し込まれている。
――ハートのA。
イヤーマイクから部下の叫び声が飛ぶ。
「戦神! 三号廊下で目標を確認!」
月光の下、九条蓮は対面の三号廊下を走る椿を捉えた。
彼女は振り返り、挑発するように投げキスを放つ。
「フォックス……!」
九条蓮は歯を食いしばる。
「必ず、俺の手で捕まえる」
踵を返し、指揮センターへ向かいながら最終命令を下した。
「全出口を封鎖。今夜、身元不明者は一切出すな」
「――彼女は、ここから出られない」
――
一方、椿は追跡を振り切ると、オークション会場内の男子トイレへ滑り込んだ。
九条蓮が張った網は厄介だ。正面突破は無理。別の道を作るしかない。
個室で工具箱を取り出し、手早く変装を剥がす。
白いワンピースに着替えた。
清純な顔立ち。小さく整った造作。透けるような肌。
淡い白が、まるで凡世に迷い落ちた仙女のように見せる。
先ほどまでの妖艶さは、欠片もない。
――だが、これこそがフォックスの素顔だった。
着替え終え、トイレを出た瞬間。
椿の耳がぴくりと動く。
……来るの、早いじゃない。
この程度の変装だけでは、九条蓮の目を誤魔化せない。
椿は踵を返し、左の廊下へ走った。
「戦神! 未捜索区域はここだけです!」
三秒も経たず、捜索員の声が背後で響く。
「続けろ!」
九条蓮の声が鋼のように響いた。
「必ず近くにいる!」
「了解!」
椿は十字廊下へ出る。
正面は行き止まり。左右と背後から追手が迫る。
――ここまで?
そのとき。
「ギィ……」
前方のプライベート・ラウンジの扉が開き、オークションのVIPたちがぞろぞろと出てきた。
椿は反射で右手を返す。指の間から鋭い刃が覗く。
道がないなら、人質を取るしかない。
そう計算した――その刹那。
「美月? 国内にいるんじゃなかったの? どうしてここに……?」
驚いた声が飛ぶ。
先頭にいたのは、儒雅な中年男性に腰を支えられた、上品な美婦人。
彼女が、椿を見つめていた。
その顔を見た瞬間、椿の呼吸が止まる。
「……違う。あなたは美月じゃないわ」
美婦人は目を凝らし、すぐに断じた。
所作も、気配も、まるで違う。
そして――椿の左目の下にある泣きぼくろを見た瞬間、女の表情が崩れた。
「あなた……まさか……」
次の瞬間、感情が決壊する。
涙を溢れさせながら、よろめくように椿へ駆け寄り、強く抱きしめた。
「椿……! 私の子……椿よ……!」
「十三年……十三年も探したの……! お父さんもお母さんも……ずっと……!」
椿は他人に触れられるのを嫌う。避ける手段はいくらでもあった。
だが、その声が――あまりにも、記憶の奥の柔らかな呼び声と重なった。
……母さん、なのか。
彼女は初めて、他人の抱擁を拒まなかった。
そして思い出す。自分には確かに、双子の姉がいたはずだ。
「ザッ、ザッ、ザッ!」
美婦人が椿を抱きしめた、その同時。
三方向から追手が廊下へ雪崩れ込む。
深い黒の軍靴が床を踏み、九条蓮の冷たい横顔が現れた――。
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「離婚してからどれほど経った? それでもう俺の『ルール』を忘れたか。お前の身体は、今でも俺をこんなによく覚えているくせに。……ほら、咥えろ」
熱を帯び、恐ろしいほどに猛り狂った彼の太いものが、絢香の顔を容赦なく叩いた。
雅人は冷たく笑う。
「俺から離れられるなんて夢にも思うな、絢香。お前は俺だけのものだ」
——
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絢香は静かに離婚届にサインし、自身の「妊娠診断書」を胸に抱いて彼の元を去った。
だが、絢香が完全に姿を消した瞬間、雅人は狂わんばかりになり、街中を血眼になって彼女を捜し回った。
ついに再会を果たしたとき、雅人の瞳は血走り、その声は掠れていた。
「絢香、俺が悪かった……頼む、俺の元に戻ってきてくれ」
竜王の花嫁
偉大なるイグナス王国を形づくる七つの村では、毎年欠かさず「選定の儀」が執り行われていた。その儀で村の娘のひとりが選ばれ、恐るべき竜王の花嫁となるのだ。
なぜそんな儀を年ごとに続けるのか、誰にもわからない。これまで選ばれていった花嫁たちが、その後どうなったのかも――。
奴隷にされているのか?
竜の餌にされているのか?
それとも……竜王自身が、彼女たちを喰らっているのか?
それだって否定はできない。王は自分たちとは違う、人ではないのだという噂があるのだから。
それでも、その疑問は執念深く人々の胸を苛んだ。
いったい、花嫁を何に使っているのか――!?
だが、誰も王に問いただそうとはしなかった。逆らうなどという無謀が、どんな運命を呼び込むかが怖かったのだ。
もっとも、そんなことはベラドンナの知ったことではない。今年は彼女の村が花嫁を差し出す番だったが、自分が選ばれるはずがないと彼女は確信していた。
なぜかって?
もちろん、計画があるからだ。そして彼女は、その計画が自分を裏切るはずがないと信じ切っていた……いや、本当にそうだろうか。
人生を謳歌する
元恋人の叔父に拾われた夜、私は彼という名の「毒」に溺れる
私を見捨てた男ではなく、彼が一番恐れていた「危険な叔父」が、暗闇から現れた。
その腕の中だけが、この二年で初めて私を孤独から救い出した。
「次、誰かが君を傷つけたら、こうするんだ」 渡された銃の重みが、私の心に深く刻まれる。
私は逃げ出したかったはずなのに、いま、彼の甘い視線から離れられずにいる。 救いなどいらない。
ただ、この危険な男の「所有物」になりたい。
家族の縁を切った日、兄たちはすべてを失った
公平を期すという名目のもと、兄たちは彼女からリソースを根こそぎ奪い、その尊厳を踏みにじってまで、運転手の娘を支えた。
彼女は兄たちのためにすべてを捧げたというのに、家を追い出され、無残に死んだ。
生まれ変わった今、彼女は人助けの精神などかなぐり捨てた。許さない、和解しない。あなたたちはあなたたちで固まっていればいい。私は一人、輝くだけ。
兄たちは皆、彼女がただ意地を張っているだけだと思っていた。三日もすれば泣きついて戻ってくるだろうと高を括っていたのだ。
だが三日経ち、また三日経っても彼女は戻らない。兄たちは次第に焦り始めた。
長兄:「なぜ最近、こんなに体調が悪いんだ?」――彼女がもう滋養強壮剤を届けてくれないからだ。
次兄:「会社のファイアウォールは、なぜこうも問題ばかり起こす?」――彼女がメンテナンスに来なくなったからだ。
三兄:「新薬の開発が遅々として進まないのはなぜだ?」――彼女が治験をしなくなったからだ。
四兄:「どうしてこんなにつまらない脚本しか上がってこない?」――彼女がもう執筆しないからだ。
五兄:「この義肢は、なぜこんなに出来が悪いんだ?」――彼女が製作をやめたからだ。
六兄:「なぜチームが負けた?」――彼女が脱退したからだ。
兄たちは地に膝をついて許しを請うた。「戻ってきてくれ。俺たちこそが、血を分けた本当の家族じゃないか」
彼女は絶縁状を兄たちの顔に叩きつけ、冷ややかに笑った。
「車が壁にぶつかってから、ようやくハンドルを切ることを覚えたのね。株が上がってから、ようやく買うことを覚え、罪を犯して判決が下ってから、ようやく悔い改めることを覚えた。残念だけど、私は――許さない!」













