紹介
そして私は、上司と一夜を共にしてしまった。
「もしもし? あなたの交際相手にわいせつ動画拡散の容疑がかかっています。至急、警察署までお越しください」
警察署で、私が最も信頼していた二人が映る動画を見せられたとき、私の世界は音を立てて崩れ去った。
だが、まさにその夜、私は彼に出会った。私の運命を徹底的に変えることになる男に。
元彼がしつこく付きまとい、私の名誉を傷つける悪質なデマを流したとき、かつて一夜を共にした、圧倒的な権力を誇るCEOが私の前に立ちはだかってくれた。
彼は盾のように私を庇い、刃のような視線で元彼を射抜いた。
「彼女はもう、俺の妻だ」
彼は冷たく言い放った。
「お前ごときに、彼女のような女を満足させられるわけがないだろう」
その瞬間、感じたのは守られている安心感だけではなかった。私は、自分が彼に完膚なきまでに、完全に恋に落ちてしまったことを痛烈に自覚した。
チャプター 1
雪見千枝(ゆきみ ちえ)が警察署を出たとき、頭の中はまだぼんやりしていた。
朝いちで電話がかかってきて、事情聴取に協力してほしいと言われたのだ。
理由が「彼氏の石川和也(いしがわ かずや)とラブホテルに入ったところを盗撮された件」だと聞かされた瞬間、正直ホッとした。
和也とは最初から約束していた。プラトニックに付き合って、大学を卒業してから――そういうことはそのときにしようって。警察の勘違いだろう、と。
ところが署で映像を見せられた途端、千枝は完全に固まった。
画面の中で絡み合っていたのは、和也と――親友の村田由衣(むらだ ゆい)。
しかも普通じゃない。縛りだの、SMだの、目を疑うような刺激的な光景が続いていた。挙げ句、それがどこかのアダルトサイトに流れていて、再生数はすでに一千万超え。
由衣は仮面をつけていたせいで、警察は反射的に「女の方=千枝」だと思い込んだらしい。
――誕生日の当日に、彼氏と親友に同時に裏切られる。
そんな現実がある?
ポケットの中にある避妊具とホテルのカードキーに触れたとき、こみ上げたのは悲しみよりも、強烈な皮肉だった。
誕生日にサプライズをしようと、縁起のいい日まで選んだのに。驚かされたのは自分の方だった。
避妊具をゴミ箱に投げ捨てようとして、ふと手が止まる。
一番高いやつを買ったんだ。初めてをちゃんと良いものにしたくて。
……なんで他人の過ちのせいで、自分の金まで無駄にしなきゃいけないの。
沈んだ気分のまま歩いていると、スマホが鳴った。
大学の同級生、酒井綾子(さかい あやこ)からで、バーのシフトを代わってほしいという電話だった。
「千枝、お願い! 今日だけバーのシフト代わって! 彼氏がやっとこっち来たの!」
「……みんな揃ってホテル行きたいのに、私だけ代打ってわけ?」
千枝は思わずため息をついた。
断ろうとした、そのとき。
「売上の3割、あげるから!」
「行く」
千枝は深く息を吐いた。
恋がダメでも、金は裏切らない。――そういうことだ。
宝飾デザイン専攻の彼女は、原石の仕入れやら何やらでお金がかかる。だから普段からバーで働いていた。
顔立ちは整っていて、愛想もいい。客受けも悪くない。
しかも今夜は大きなイベントで客数も多い。歩合も跳ねる。
気づけば千枝は、裏切られた痛みすら忘れて、全力で稼ぐモードに切り替わっていた。
人混みの中をすり抜けながら、酒を売っていく。
そのとき、VIP席の西園寺梨乃(さいえんじ りの)が彼女を見つけた。
隣で涼しい顔をしている弟に向かって、梨乃は九条悠(くじょう ゆう)の手から保温ボトルをひったくる。
「悠、バーで白湯って……あんた病気? せっかくの景色と美人が揃ってるのに。おじいちゃんに結婚急かされてるんでしょ? 条件なんて特にないなら、女なら誰でもいいじゃん」
その話題だけは悠の機嫌を確実に悪くする。
彼はボトルを奪い返し、大きく一口飲んだ。
家の後継として育てられて、恋愛なんて考えたこともない。今すぐ結婚しろ? 冗談じゃない。
「でも女なら誰でもいいってわけでもないよねえ。可愛くて、スタイル良くて、いちばん大事なのは――言うこと聞くこと」
梨乃は指をひらひらさせる。
「そこの子、こっち来て」
呼ばれて、千枝は営業スマイルのまま近づいた。
「お客様、何かお探しですか?」
相手の耳元には、L家の最新作のダイヤピアス。
千枝は一番高い酒のメニューを取り出し、にこやかに差し出した。
「こちら、今朝入ったばかりのワインです」
「この子に一杯飲ませたら、そのページ全部買う」
梨乃は悠を横目に見る。悠の顔がさらに黒くなった。
千枝は一目で悟る。
この男――バーで一番扱いづらいタイプだ。
仕立てのいいスーツ。シャツのボタンは上まできっちり。禁欲系の塊みたいな格好。
こういうのは、極端に淡白か、極端に過激か。
彼女はメニューの金額を確認しながら言った。
「お客様、本当に……よろしいんですか?」
「カード。飲んだらこのページ全部」
梨乃が黒金のSVIPカードを差し出す。
千枝は笑顔で受け取り、その流れで悠の隣に腰を下ろした。
すると悠は即座に身体をずらす。
――近づいても触ってこない。悪くない。
千枝は眉をわずかに上げた。
「お客様、私、上に親がいて下に……まあ色々いて。家族全員、私の稼ぎ頼みなんです。ひと口だけでも、お願いできませんか?」
わざとらしく酒杯を持ち上げる。
悠は動かない。ただ黙って彼女を見ている。演技は下手。会社が今年採用した広告モデルの方がよほど自然だ。だが顔は――やけに目を引く。特に瞳。喋りそうなほど綺麗だ。
その視線に千枝は一瞬ひるむ。けれど五桁の歩合が頭をよぎり、笑顔を作り直した。
「マルベックの辛口、いかがです?」
さっき保温ボトルを見た。若く見えるが、実はもう中年なのかもしれない。
身体がついていかないなら、強い酒は苦手だろう。
隣で梨乃が腹を抱えて笑う。
「わあ、見る目ある。こいつ、ダメってわかった?」
「飲まない」
悠は目を上げ、続けて言った。
「……あと金も払わない」
千枝は心の中で歩合の数字を何度も唱え、罵倒を飲み込む。
「では、お客様は何をお飲みになりますか?」
悠が保温ボトルを差し出した。
「白湯」
千枝は歯ぎしりしながら受け取ろうとした――その瞬間。
通りかかった客が彼女の肩にぶつかった。足を取られ、千枝は悠の方へ倒れ込む。
悠は反射的に手を引き、距離を取ろうと後ろへ身を反らしたが、千枝は彼の手首を掴んでしまった。
その刹那、悠の身体に痺れるような感覚が走り、動けなくなる。
ぶつかった客は平謝りし、詫びにと酒を二本注文した。
その様子を見て、千枝の頭にひらめきが落ちる。
彼女はテーブルの酒を手に取り、にっこりした。
「先ほどは助けていただいて、ありがとうございました。私、いただきます。お客様はお好きに」
ぐいっと一杯。
悠は何も言わず、動かない。
千枝は腹を括り、さらに二杯注いだ。
「大恩は言葉じゃ返せません。私が三杯。お客様はひと口だけ。顔、立ててください」
返事を待たずに二杯続けて飲み干す。
大美女がVIP席で三杯一気。周りがざわつき、囃し立てる声が上がった。
悠はその瞳を見つめ、不本意そうに、ひと口だけ飲んだ。
「今日、誕生日なんです。もう一杯、乾杯!」
千枝はさらに三杯あおる。さすがに梨乃も止めに入った。
「美女、そこまでしなくていいって」
だが千枝はすでに酔いが回っていた。どさっと悠の隣に座り込む。
酒のせいか、急に胸の奥がきゅっと痛んだ。
「ほんとに今日、誕生日……」
鼻をすすり、ポケットを叩く。避妊具とカードキーがまだ静かに入っている。
「準備してたのに。全部あのクソ野郎のせい……!」
和也のことが脳裏にちらつき、腹の底がむかむかする。
千枝はコップを取っては飲み、取っては飲んだ。
悠は無表情のまま見ていた。視線は一瞬たりとも、彼女の綺麗な目から逸れない。
梨乃は呆れ果てた。まるで呪いにでもかかったかのように、悠は操り人形さながら千枝の一挙手一投足を追っている。
閉店間際、梨乃がトイレに立った。
戻ってきたとき――席にいたはずの二人が消えていた。
ホテルの薄暗い照明の下。
千枝は目の前の男を見上げて、現実味がなかった。
さっき、ポケットからカードキーと避妊具がなぜか落ちてしまい、周囲の視線のど真ん中に転がった。固まっている間に、隣の男が拾ってくれた。
その整った顔を前に、千枝は魔が差したみたいに口を滑らせる。
「……私と、来る?」
悠は唇を結び――本当に、ついて来た。
予約していた豪華なキングサイズの部屋に入ると、千枝は霞む目で彼の横顔を見つめ、思わず唾を飲んだ。
角ばった輪郭。深い眼。固く結ばれた唇。
和也みたいなクズ男より、ずっとカッコいい。
結局、私だって顔で選んだんだ。
一目惚れと、見た目に釣られるの、どこが違うっていうの。
縁起のいい日。部屋はキャンセルできない。避妊具も買った。しかも目の前にこんなイケメン。
ここで無駄にしたら、罰が当たる。
千枝は一歩近づき、荒くなる息のまま告げた。
「私と寝ても、責任は取らないからね」
悠の瞳が暗く深まる。
次の瞬間、彼は彼女の唇を塞いだ。
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「?」
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兄たちは皆、彼女がただ意地を張っているだけだと思っていた。三日もすれば泣きついて戻ってくるだろうと高を括っていたのだ。
だが三日経ち、また三日経っても彼女は戻らない。兄たちは次第に焦り始めた。
長兄:「なぜ最近、こんなに体調が悪いんだ?」――彼女がもう滋養強壮剤を届けてくれないからだ。
次兄:「会社のファイアウォールは、なぜこうも問題ばかり起こす?」――彼女がメンテナンスに来なくなったからだ。
三兄:「新薬の開発が遅々として進まないのはなぜだ?」――彼女が治験をしなくなったからだ。
四兄:「どうしてこんなにつまらない脚本しか上がってこない?」――彼女がもう執筆しないからだ。
五兄:「この義肢は、なぜこんなに出来が悪いんだ?」――彼女が製作をやめたからだ。
六兄:「なぜチームが負けた?」――彼女が脱退したからだ。
兄たちは地に膝をついて許しを請うた。「戻ってきてくれ。俺たちこそが、血を分けた本当の家族じゃないか」
彼女は絶縁状を兄たちの顔に叩きつけ、冷ややかに笑った。
「車が壁にぶつかってから、ようやくハンドルを切ることを覚えたのね。株が上がってから、ようやく買うことを覚え、罪を犯して判決が下ってから、ようやく悔い改めることを覚えた。残念だけど、私は――許さない!」
人生を謳歌する
全能令嬢の帰還、家族が倒産?
父は冤罪で獄中にあり、母は病に伏せっている。
六人の兄たちも、ある者は身体に障がいを負い、ある者は無気力に沈んでいた。
そんな折、家に潜り込んでいた偽令嬢は状況を見るや否や一家を見捨てて姿を消し、さらに屋敷までも奪い取ろうとしていた。
世間は夏川家を「落ち目の負け犬」と嘲笑い、皆がこぞって踏みにじる。
紅蓮が静かに一声を発すれば、暗部より無数の異能の士たちが姿を現し、形勢は一瞬にして逆転する。
父は無実のまま出所し、母は健康を取り戻し、廃人同然だった長兄は再び己の足で歩き出し、残る五人の兄たちもまた紅蓮の導きによって各々の才覚を花開かせ、やがて各界を牽引する大物へと成り上がっていく。
しかし、そんな彼女を指さして嘲る者がいる。
「夏川紅蓮は地味で野暮ったい田舎者だ」と。
何を隠そう、彼女は無数の隠された顔を持つ存在。
神医の令嬢も彼女なら、国画の大家も彼女。
伝説のハッカーも彼女なら、正体不明の謎の女優も彼女。
そして、暗部を統べる首領さえも——彼女なのだ。
そんな折、頂点に君臨する名門の若様が、彼女をそっと腕のなかに抱き寄せた。
「誰が彼女を田舎くさい地味女だと言った? 彼女こそ、俺・諏訪淳行の婚約者だ」
紅蓮が流し目をひとつ送る。
「婚約、破棄しなくていいの?」
「しない」
彼が長いあいだ追い求めてきた決して手の届かない高嶺の花こそが、いま腕のなかにいる婚約者なのだ。
解消などありえない——この婚約は、死んでも解消しない。
今さら帰ってこいと言われても遅い!
本物の娘が戻ってきたその日、私はゴミのように家を追われた。
十五年もの間、家族のために尽くしてきた日々はすべて否定され、身に覚えのない罪を着せられ、幼馴染だった婚約者さえも私を裏切り、本物の令嬢へと乗り換えた。
元家族たちは、私が「貧困街で野垂れ死ぬ哀れな女」だと見下し、勝ち誇っていた。
だが、彼らは致命的な勘違いをしていたのだ。
泥だらけの私を迎えに来た不気味なバイクの男が、実は国家トップクラスの超巨大財閥の御曹司であることも。
私の本当の実家が、誰もがひれ伏す歴史ある名门一族だということも。
そして何より、彼らが無能だと見くびっていた私自身が、各界の重鎮たちが縋る名医であり、世界のファッション界を裏から牛耳る「伝説の天才デザイナー」であるということを!
「今まで苦労をかけたね、私たちの愛しいお姫様」
待ち受けていたのは、超過保護な両親と、不器用ながらも妹を全力で守る身内たちによる、規格外の溺爱ラグジュアリーライフ。
一方、本物の天才を自らドブに捨てた元家族や元婚約者には、取り返しのつかない破滅と、血を吐くような「絶望の後悔タイム」が幕を開ける!
どん底から世界の頂点へ駆け上がる、爽快感100%の現代逆転シンデレラストーリー!
天才デザイナーの私と三つ子を、大富豪は取り戻したい
屈辱に塗れ、身一つで夜逃げするように国を去った私は、その後に彼の「三つ子」を身ごもっていることに気づく。
――6年後。
私は世界に名を馳せる天才デザイナーとなり、奪われたすべてを取り戻すために帰国した。
しかし、悪辣な嘘に目を曇らされた知暁は、私を激しく憎み、「仇敵」として冷酷に立ちはだかる。
やがてすべての真実が白日の下に晒された時、彼は己の過ちに絶望し、プライドを捨てて泣きながら私に許しを乞うた。
だが、傷つけられた私の心はもう戻らない。私は彼の懇願を、冷徹に突き放した。
――もう遅いわ。あなたを一生、許すつもりはない。
そう誓ったはずの私だったが、予想だにしない誤算があった。
私たちが産んだ愛らしい三つ子たちが、今さら戻りたいと泣く父親の、まさかの最強の味方として動き出したのだから。













