彼の女王に、私が築き上げたすべてを壊されました

彼の女王に、私が築き上げたすべてを壊されました

渡り雨 · 完結 · 14.0k 文字

635
トレンド
654
閲覧数
6
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

私はアーサーのために千年を捧げ、彼を神王の玉座に据えた。

なのに彼は、私たちの婚約大典の場で、別の女を神后として迎えると言い出した。

前の生では、私は彼のために最後の一滴まで血を流した。

リリスには天使の血が必要だと彼は言い、私は信じた。結果、私は神罰柱に縛りつけられ、刃で――一刀、また一刀と胸を裂かれた。

一族は「叛逆」の名のもとに、皆殺しにされた。

死の間際になってようやく知った。楚々として可憐な「聖女」など仮の顔で、その正体は深淵の魔女だったのだと。

二度目の人生。高く神座に座る彼を見上げても、湧くのは吐き気だけ。

私は衆目の前で婚を壊し、熾天使の一族を連れて去る。

今度こそ、彼が自分の撒いた種を食らうさまだけを見たい。

チャプター 1

 私はアーサーのために千年を捧げ、彼を神王の玉座に据えた。

 なのに彼は、私たちの婚約大典の場で、別の女を神后として迎えると言い出した。

 前の生では、私は彼のために最後の一滴まで血を流した。

 リリスには天使の血が必要だと彼は言い、私は信じた。結果、私は神罰柱に縛りつけられ、刃で――一刀、また一刀と胸を裂かれた。

 一族は「叛逆」の名のもとに、皆殺しにされた。

 死の間際になってようやく知った。楚々として可憐な「聖女」など仮の顔で、その正体は深淵の魔女だったのだと。

 二度目の人生。高く神座に座る彼を見上げても、湧くのは吐き気だけ。

 私は衆目の前で婚を壊し、熾天使の一族を連れて去る。

 今度こそ、彼が自分の撒いた種を食らうさまだけを見たい。

――

 私は聖殿の中央に立ち、神王の宝座に居座るアーサーを冷ややかに見据えた。

 その手には、か弱い女の手が繋がれている。

 リリス。天界で新たに名を上げた、癒やしの「聖女」。

「セシリア。リリスは私を救うために神魂を傷つけた」

 不服など許さぬ威厳を帯びた声が、大殿に鳴り響く。

「彼女は天界の大功臣だ。本日の大典は褒賞に留まらない。リリスを神后として迎える日とする」

 その宣言が落ちた瞬間、場はざわめきに包まれた。

 権天使や力天使たちがひそひそと囁き合い、視線は一斉に私へ突き刺さる。

 誰もが知っている。熾天使一族の族長であり、神聖軍団の最高統帥であるこの私セシリアこそ、千年にわたりアーサーに寄り添ってきた正統な婚約者だ。

 彼を神王として盤石にするため、私は熾天使を率いて深淵と三百年戦い続けた。

 それなのに――私たちの婚約大典で、別の女を迎えるだと?

 リリスはアーサーの胸に身を預け、怯えた子鹿のような目で私を見た。

「セシリアお姉様、どうか陛下をお怒りにならないでください。全部、私が悪いんです……深淵の戦場で、陛下の代わりにあの一撃を受けてしまって……」

「私は名分なんて要りません。ただ陛下のおそばにいられれば……侍女でも、喜んで」

 言葉が進むほど、目尻が赤く滲み、涙が今にも落ちそうで落ちない。

 アーサーは彼女をいたわるように抱き寄せ、そして私を睨みつけた。

「セシリア、リリスの健気さを見ろ!」

「神聖軍団の統帥たる者、度量を持て。今日の件は同意するしかない。同意しようとしまいと、決定だ!」

 その正義面した口ぶりに、胃の奥がぐらりと反転する。

 前の生の記憶が、濁流みたいに押し寄せた。

 前の生の今日も、私はここに立っていた。

 その知らせを聞いて私は発狂したように彼を問い詰め、リリスに手を出そうとした。

 結果は?

 アーサーはその女を守るため、私の六枚の翼を一撃で貫いた。

 天界の衆目の前で、統帥の座は剥奪された。

 それからリリスは病を装い、「熾天使の血でなければ神魂は癒えない」と泣きついた。

 アーサーは迷いなく私を神罰柱へと繋いだ。

 自分の手で、胸を――一刀、また一刀と裂き、神血を絞り尽くした。

 死ぬまで忘れない。アーサーの背に隠れたリリスが、口元に浮かべたあの毒々しい冷笑を。

 筋を抜かれ、骨を砕かれ、私の一族は「叛逆」の名で皆殺しにされた。

 心臓の芯を貫くあの絶望を、二度と味わう気はない。

 生き直した今も、彼は変わらない。身勝手で、偽善的で、反吐が出る。

 私がなかなか口を開かないせいで、周囲の神々が小声で囁き始めた。

「セシリア統帥、何も言わないな。怒りで頭が真っ白なのか?」

「気の毒だよな。あれだけ尽くしたのに、結局は別の女か」

「しっ、声を落とせ。神王も恩返しって言い分だろ」

 アーサーは私の沈黙を、いつもの譲歩だと勘違いしたらしい。

 高みから施しを投げるように言う。

「セシリア。今日、素直にリリスを受け入れるなら、お前にも居場所は用意してやる」

「本王の気持ちは変わらない」

 私は鼻で笑った。

 アーサーが眉をひそめる。

「何がおかしい?」

 私は顔を上げ、氷のような目で彼を射抜く。

「笑ってるのは、あんたが目も心も腐ってるってこと」

「私が、あんたの心なんか欲しがると思う?」

 右手を掲げると、掌に金色の輝きが凝結した。

 先代の神王が遺した婚約の結晶。あのとき確かに、私とアーサーの婚約はそれで定められた。

 アーサーの顔色が変わる。

「セシリア、何をする気だ?!」

 私は五指を握り込んだ。

 砕けぬはずの婚約の結晶が、私の手の中で粉塵へと潰れる。金の粉がさらさらと宙に舞った。

 場が凍りつく。

 誰もが目を見開き、信じられないものを見るように私を見た。

 リリスも固まり、泣く芝居すら忘れている。

 私は冷えた声で、断ち切るように告げた。

「今日をもって、私たちの婚約は無効よ」

 アーサーが勢いよく立ち上がり、顔を怒りで染める。

「セシリア! 自分が何をしているか分かっているのか? 公の場で婚約を破棄する気か?!」

「先に私を汚したのはあんたでしょう。嫌がって何が悪いの?」

 私は一歩も引かずに見返した。

「アーサー。この千年、あんたのために命を懸けてきたのは、私たち熾天使一族よ」

「その、泣いてばかりの役立たずが私より大事なら――どうぞ、お似合い同士で一生縛り合ってなさい」

「私は付き合わない」

最新チャプター

おすすめ 😍

すべてを奪われた令嬢は、やり直しの人生で微笑む

すべてを奪われた令嬢は、やり直しの人生で微笑む

4.3k 閲覧数 · 連載中 · 夢物語
冷たい土の中、私はゆっくりと息絶えようとしていた。
視界を染めるのは絶望の闇。そして、耳元に届くのは――従妹・原田紀奈の、歪んだ嘲笑。

「お姉ちゃん、恨むなら自分の甘さを恨みなさい」

父の薬をすり替え、母を死に追いやり、兄の事故さえ仕組んだ。すべては、目の前で笑うこの女の仕業だった。
さらに突きつけられる、あまりにも残酷な真実。

「あなたの婚約者はね、あなたが身を削って得たお金で、私への婚約指輪を買ったのよ?」

――すべてを奪われ、絶望の中で命を落とした、はずだった。

しかし、次に目を覚ますと、そこは見覚えのある「19歳の誕生日パーティー」の会場。
前世と同じように、婚約者の七瀬崚介が私に無実の罪を着せ、謝罪を迫っている。

(……でも、もう私は、あの頃の愚かな人形じゃない)

奪われた人生も、向けられた悪意も、そのすべてを覚えている。
今度は、私が奪い返す番。
裏切り者たちに、地獄以上の絶望を――たっぷり利子を付けて、返してあげる。
転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

271.5k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
婚約者が浮気していたなんて、しかもその相手が私の実の妹だったなんて!
婚約者にも妹にも裏切られた私。
さらに悲惨なことに、二人は私の手足を切り落とし、舌を抜き、目の前で体を重ね、そして私を残酷に殺したのです!
骨の髄まで憎い...
しかし幸いなことに、運命の糸が絡み合い、私は蘇ったのです!
二度目の人生、今度は自分のために生き、芸能界の女王になってみせる!
復讐を果たす!
かつて私をいじめ、傷つけた者たちには、十倍の報いを受けさせてやる...
氷の君と太陽の私

氷の君と太陽の私

36.2k 閲覧数 · 完結 · 鍋部奈
裏切られ、後悔に溺れながら死んだ私は、恐れられ冷酷な婚約者が私を救おうと身を投げる姿を見た。

運命が私を引き戻した——薬を盛られた結婚初夜、彼の腕の中で生まれ変わったのだ。これは私の二度目のチャンス。

かつて逃げ出した男こそが私の運命。彼の狂おしい愛こそが、私の最強の武器。世界が恐れる男を受け入れ、彼の姫となろう。共に、私たちを破滅させた裏切り者どもを灰燼に帰すのだ。

しかし私の突然の献身は、彼に疑念を抱かせる。心を砕いてしまった男に愛を証明するには、どうすればいいのだろう……彼の最も暗い欲望が、私を永遠に縛り付けることだと知りながら。
家族を離れ、自由を望んでる私は既にある者の虜になった

家族を離れ、自由を望んでる私は既にある者の虜になった

56.2k 閲覧数 · 連載中 · 鯨井
彼氏に裏切られた後、私はすぐに彼の友人であるハンサムで裕福なCEOに目を向け、彼と一夜を共にした。
最初はただの衝動的な一夜限りの関係だと思っていたが、まさかこのCEOが長い間私に想いを寄せていたとは思いもよりなかった。
彼が私の元彼に近づいたのも、すべて私のためだった。
最強ベビーと難攻不落のママ

最強ベビーと難攻不落のママ

18.8k 閲覧数 · 連載中 · 彩月遥
母親が再婚したため、田中春奈はずっと自分が家の中で異質な存在だと感じており、義父や姉との関係も良くなかった。
しかし、思いもよらない策略による一夜の過ちで、田中春奈は家を追い出され、故郷を離れて海外で学業を続けることになった。
その間、彼女はあの正体不明の男性の子を妊娠していることに気づく。
迷った末、彼女は子どもを産むことを決意した。
5年後、故郷に戻った彼女は江口匠海と出会い、次第に彼に惹かれていく。
しかし、ある事故をきっかけに、あのときの男性が彼であったことを知るのだった。
名門貴族との甘い結婚

名門貴族との甘い結婚

3.6k 閲覧数 · 連載中 · 佐藤製作所
かつて勘当した娘がホワイトシティで名を馳せたことを知り、愕然とした。産業界の巨人、学術界の権威、そしてAリストの俳優たちが、彼女のおかげで成功を収めたと口を揃えて語った。彼女の元カレは、夢の女性を選んで彼女を捨てたものの、今や彼女を取り戻そうと必死に懇願していた。しかし、彼女のそばには、背が高くハンサムな男性が立ち、「私の妻に何をしているつもりだ?」と宣言した。
その男性こそ、ホワイトシティ一の大富豪だったのだ。
「もう疲れた」不倫夫を捨て、自由になる

「もう疲れた」不倫夫を捨て、自由になる

36.4k 閲覧数 · 連載中 · 青木月
結婚して5年。
数日前には幼馴染と楽しげに戯れていた夫が、今度は初恋の女を連れてホテルの入り口へと消えていく。

二人は人目もはばからず、濃厚な口づけを交わしていた。
夫の腕の中にいる女は、潤んだ瞳で彼を見つめている。一見すると純情そうだが、その眼の奥には私への明らかな悪意が潜んでいた。

妻である私は、ただその場に立ち尽くすしかなかった。
爪が掌に食い込み、血が滲む。
けれど、手の痛みより、引き裂かれた心の痛みのほうが遥かに強かった。

冷たい風が、私の髪を揺らす。
その瞬間、ふと強烈な疲れを感じた。

ああ、もういいや。
5年間の結婚生活。
私は彼を許すのをやめ、自分自身を解放することにした。
家族の縁を切った日、兄たちはすべてを失った

家族の縁を切った日、兄たちはすべてを失った

280.6k 閲覧数 · 連載中 · 風見リン
前の人生で両親が交通事故で亡くなった後、長兄は世間体を気にして、事故を起こした運転手の娘を家に引き取った。
公平を期すという名目のもと、兄たちは彼女からリソースを根こそぎ奪い、その尊厳を踏みにじってまで、運転手の娘を支えた。
彼女は兄たちのためにすべてを捧げたというのに、家を追い出され、無残に死んだ。

生まれ変わった今、彼女は人助けの精神などかなぐり捨てた。許さない、和解しない。あなたたちはあなたたちで固まっていればいい。私は一人、輝くだけ。

兄たちは皆、彼女がただ意地を張っているだけだと思っていた。三日もすれば泣きついて戻ってくるだろうと高を括っていたのだ。
だが三日経ち、また三日経っても彼女は戻らない。兄たちは次第に焦り始めた。

長兄:「なぜ最近、こんなに体調が悪いんだ?」――彼女がもう滋養強壮剤を届けてくれないからだ。
次兄:「会社のファイアウォールは、なぜこうも問題ばかり起こす?」――彼女がメンテナンスに来なくなったからだ。
三兄:「新薬の開発が遅々として進まないのはなぜだ?」――彼女が治験をしなくなったからだ。
四兄:「どうしてこんなにつまらない脚本しか上がってこない?」――彼女がもう執筆しないからだ。
五兄:「この義肢は、なぜこんなに出来が悪いんだ?」――彼女が製作をやめたからだ。
六兄:「なぜチームが負けた?」――彼女が脱退したからだ。

兄たちは地に膝をついて許しを請うた。「戻ってきてくれ。俺たちこそが、血を分けた本当の家族じゃないか」

彼女は絶縁状を兄たちの顔に叩きつけ、冷ややかに笑った。
「車が壁にぶつかってから、ようやくハンドルを切ることを覚えたのね。株が上がってから、ようやく買うことを覚え、罪を犯して判決が下ってから、ようやく悔い改めることを覚えた。残念だけど、私は――許さない!」
令嬢の私、婚約破棄からやり直します

令嬢の私、婚約破棄からやり直します

90k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
皆が知っていた。北野紗良は長谷川冬馬の犬のように卑しい存在で、誰もが蔑むことができる下賤な女だと。

婚約まで二年、そして結婚まで更に二年を費やした。

だが長谷川冬馬の心の中で、彼女は幼馴染の市川美咲には永遠に及ばない存在だった。

結婚式の当日、誘拐された彼女は犯される中、長谷川冬馬と市川美咲が愛を誓い合い結婚したという知らせを受け取った。

三日三晩の拷問の末、彼女の遺体は海水で腐敗していた。

そして婚約式の日に転生した彼女は、幼馴染の自傷行為に駆けつけた長谷川冬馬に一人で式に向かわされ——今度は違った。北野紗良は自分を貶めることはしない。衆人の前で婚約破棄を宣言し、爆弾発言を放った。「長谷川冬馬は性的不能です」と。

都は騒然となった。かつて彼女を見下していた長谷川冬馬は、彼女を壁に追い詰め、こう言い放った。

「北野紗良、駆け引きは止めろ」
初恋よ、引き下がれ!

初恋よ、引き下がれ!

34k 閲覧数 · 連載中 · 午前零時
結婚してから、夫が私に触れたことは一度もなかった。
私は、彼を無性愛者なのだと思い込んでいた。……あの日、彼の裏切りを知るまでは。

夫の浮気が発覚したのは、相手の女が病院に運ばれたからだった。二人の行為があまりに激しかったせいだという。

そして、何よりも私を打ちのめしたのは、その相手が――私の実の妹だったという事実だ。

その瞬間、心臓を煮えたぎる油に放り込まれたような、耐え難い激痛が全身を貫いた。
裏切られた後に億万長者に甘やかされて

裏切られた後に億万長者に甘やかされて

719.1k 閲覧数 · 連載中 · FancyZ
結婚四年目、エミリーには子供がいなかった。病院での診断が彼女の人生を地獄に突き落とした。妊娠できないだって?でも、この四年間夫はほとんど家にいなかったのに、どうやって妊娠できるというの?

エミリーと億万長者の夫との結婚は契約結婚だった。彼女は努力して夫の愛を勝ち取りたいと願っていた。しかし、夫が妊婦を連れて現れた時、彼女は絶望した。家を追い出された後、路頭に迷うエミリーを謎の億万長者が拾い上げた。彼は一体誰なのか?なぜエミリーのことを知っていたのか?そしてさらに重要なことに、エミリーは妊娠していた。
溺愛令嬢の正体は、まさかの霊能界トップ!?

溺愛令嬢の正体は、まさかの霊能界トップ!?

233.9k 閲覧数 · 連載中 · 朝霧祈
原口家に取り違えられた本物のお嬢様・原田麻友は、ようやく本家の原田家に戻された。
──が、彼女は社交界に背を向け、「配信者」として自由気ままに活動を始める。
江城市の上流社会はこぞって彼女の失敗を待ち構えていた。
だが、待てど暮らせど笑い話は聞こえてこない。
代わりに、次々と大物たちが彼女の配信に押しかけてくるのだった。
「マスター、俺の命を救ってくれ!」──某財閥の若社長
「マスター、厄介な女運を断ち切って!」──人気俳優
「マスター、研究所の風水を見てほしい!」──天才科学者
そして、ひときわ怪しい声が囁く。
「……まゆ、俺の嫁だろ? ギュってさせろ。」
視聴者たち:「なんであの人だけ扱いが違うの!?」
原田麻友:「……私も知りたいわ。」