鈍感すぎる後見人様へ。あなたの育てた淑女は、もう待てません!

鈍感すぎる後見人様へ。あなたの育てた淑女は、もう待てません!

猫又まる · 完結 · 26.8k 文字

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紹介

私の名前は夏目結奈。これからお話しするのは、私がたった一人の男を、いかにして絶望の淵に突き落とし、手に入れたかという物語。

その人の名は、結城隼人。
十三歳で孤児になった私を救い、育て、守ってくれた後見人。九年間、彼は私の世界のすべてだった。
――そう、私が彼を「男」として愛してしまうまでは。

二十二歳の告白。それは彼をひどく動揺させ、私は罰のようにL市へ送られた。
距離を置けば、私のこの狂おしい恋心が『治る』とでも思ったのだろう。

彼は致命的な過ちを犯した。自分が丹精込めて作り上げた女を、過小評価したのだ。

L市での二年間。それは、甘美な復讐の始まり。
彼が私の気を逸らすために送り込んだ偽の恋人たちを弄び、彼を嫉妬させるための罠を仕掛け、遠い地から彼の心がゆっくりと壊れていく様を愉しんでいた。

そして今、私はM市へ帰ってきた。
彼が望んだ『完璧な淑女』の仮面を被って。

さあ、ゲームの最終章を始めましょう、結城隼人?
あなたが私から決して逃れられないことを、その身をもって教えてあげる。

チャプター 1

 夏目結奈視点

 最後の客が帰ったばかりで、リビングにはまだシャンパンの残り香が漂っていた。私は床から天井まで続く窓辺に立ち、ガラスを伝う雨粒に目をやる。無数の水滴の向こうで、M市の夜景が、まるで印象派の絵画のように滲んでいた。

 今夜のパーティーは、私の大学卒業を祝うためのものだった。一晩中、名士たちが私を取り囲んで賛辞を並べ立てたが、私の意識はずっと結城隼人に釘付けだった。

 彼はあの紺色のスーツを身にまとい、銀縁の眼鏡がクリスタルのシャンデリアの光を反射していた。その一挙手一投足から、人を惹きつけてやまない、冷たいほどの優雅さが放たれている。

 私が十三歳の時、すべてが変わった。交通事故。両親は一瞬でいなくなった。

 結城隼人は、皺の寄った黒いスーツ姿で病院に現れた。その目は悲しみで赤く腫れていた。

「君のお父さんと約束したんだ」

 彼は途切れがちな声で言った。

「万が一のことがあれば、君の面倒は私が見ると」

 夏目邸宅から、R市のマンションへ。友人の娘から……何へ? 被後見人? 私たちはその関係を定義したことがない。

 最初は彼に反抗した――叫び、物を壊し、彼を突き放した。けれど、結城隼人は決して諦めなかった。私が泣き疲れて眠るまで夜通し寄り添い、日曜の朝には不格好なトーストを作り、学校の発表会には必ず最前列で見ていてくれた。

 九年間、彼の揺ぎない存在と、静かな献身があった。

 依存が、まったく別の何かに変わったのはいつだっただろう。感謝が、この身を焦がすような渇望に変わったのは。

 私が自分の保護者に恋をした、その正確な瞬間を思い出すことはできない。

 九年。十三歳から二十二歳まで。途方もない、九年という時間。

 私は振り返った。結城隼人がコーヒーテーブルからワングラスを片付けている。その動きは優雅で、手慣れたものだった。専門の清掃スタッフがいるというのに、彼はいつもこうして自分で何でもこなしてしまう。

「結城隼人」

「ん?」

 彼は顔を上げず、片付けを続けている。

 私は深く息を吸った。今しかない。

「愛しています」

 彼の動きが、空中で凍りついた。高価なクリスタルグラスが指の間から滑り落ち、厚い絨毯の上に、ことり、と小さな音を立てた。幸いにも、グラスは割れずにソファの下へと転がっていった。

 だが、結城隼人自身は、まるで時が止まったかのように動きを止め、愕然とした表情で私を見つめていた。

 彼はゆっくりと顔を上げ、私を見つめた。銀縁の眼鏡の奥にある深い鳶色の瞳が、信じられないという色に染まっている。

「……何?」

 彼の声は微かに震えていた。

「今、何と?」

「愛していると言ったの」

 私は彼に向かって歩き出した。一歩一歩、確信を込めて。

「保護者としてじゃなく、一人の男性として。あなたと一緒にいたい」

「……本気で、言っているのか?」

 彼はもう一度尋ねた。今度は絞り出すような声で。

「もう、ふりをするのは嫌なの、結城隼人」

 彼の正面に立ち止まる。彼の纏う、微かなコロンの香りが届くほど近くに。

「愛しています。あなたと一緒にいたい」

「ふざけるなっ!」

 三度目の声は、ほとんど怒号に近かった。

 雨脚が強まり、この夜のパーカッションのように窓ガラスを激しく叩いていた。リビングを満たすのは、私たちの呼吸と、私の心臓が打ち鳴らす速い鼓動だけだった。

 結城隼人は眼鏡を外し、親指と人差し指でこめかみを押さえた。彼の神経質になった時の癖――私はそれを知りすぎていた。

「結奈、正気か?」

 彼の声は低く、危険な響きを帯びていた。

「俺は君の保護者だ!君のお父さんに、君を守ると誓ったんだぞ!」

「なら、一生守って」

 私はさらに一歩近づいた。

「私たちは血が繋がっているわけじゃない。何がいけないの?」

「これが間違いなんだ!」

 彼は激昂して立ち上がった。その目は怒りに燃えている。

「完全に間違っている!」

 でも、私には見えた。その怒りの奥で、何かが一瞬よぎったのを。恐怖? それとも……同じ渇望?

「どうして間違いなの?」

 私は問い詰める。

「あなたも同じ気持ちで、それが怖いから?」

 彼は背を向け、書斎の方へ大股で歩いていった。何かをがさごそと探す音、そして電話をかける音が聞こえる。

「今夜、L市へ飛びたい。プライベートジェットを一時間以内にチャーターしてくれ」

 電話口の彼の声は、恐ろしいほど冷静だった。

 私の心臓が、奈落の底へ落ちていく。

「私を追い出すつもり?」

 私は書斎に駆け込んだ。

「結城隼人、何から逃げてるの?」

 彼は電話を切り、私に向き直った。その深い鳶色の瞳には、一片の温かみもなかった。

「荷物をまとめろ。一時間後に出る。これ以上、馬鹿げた話は聞きたくない」

「馬鹿げた?」

 胸に鋭い痛みが走った。

「じゃあ、今私が言ったことは、あなたにとって何の意味もないの? 馬鹿げたことなの?」

「結奈、君は混乱しているだけだ」

 その口調は、まるでビジネスの取引を処理するかのように冷淡だった。

「冷静になってr、自分が何を言っているのか考える時間が必要だ」

「私ははっきり考えてるわ!」

 私の声が上ずる。

「今までで一番、はっきりと!」

 しかし、彼はもう書斎を出て行ってしまった。心を踏み躙られたまま、私はそこに一人、立ち尽くしていた。

 一時間後、私たちは空港へ向かう高級セダンの中にいた。雨はまだ降り続き、街灯が水滴を通してぼんやりとした光の輪を屈折させている。私は後部座席に、結城隼人はその向かいに座っていた。私たちの間の距離は、まるで広大な海のように感じられた。

「会いに来てくれないの?」

 私はついに、少し詰まった声で口を開いた。

「一日だけでも?」

「いや」

 彼の返事は短く、残酷だった。

「金以外は何も与えない」

 ついに涙が溢れ出した。九年間を共に過ごし、九年間の日常を分かち合った。それを、彼はたった一言で死刑宣告したのだ。

「本当に、そんなに酷い人だったの?」

「君のためだ」

 彼は窓の外に視線を向け、私と目を合わせようとはしなかった。

「そして、俺のためでもある」

 車が空港で止まり、エンジンのハミングが徐々に消えていく。雨音がはっきりとしてきて、まるで私の心臓を叩くかのようにルーフを打ち鳴らした。

 私は車を降りた。私の荷物はすでに飛行機に積み込まれている。結城隼人は車のそばに立ち、雨が彼の髪を濡らしていたが、それでもなお、あの人を惹きつける優雅さを保っていた。

 タラップへと歩き、そして不意に振り返った。雨で視界が滲んでいたが、それでも彼の顔ははっきりと見えた。

「結城隼人」

 雨の夜を切り裂くように、私は叫んだ。

「よく聞いて――私は絶対にあなたを諦めない。たとえ、それで死ぬことになったとしても!」

 私は振り返らずに機内へと乗り込んだ。でも、彼がまだそこに立っているのは分かっていた。雨が彼の服を、そしてあの念入りに保たれた完璧なイメージを、びしょ濡れにしているのも。

 飛行機のエンジンが轟音を立てて始動した。小さな丸窓から、彼がまだ雨の中に彫像のように立っているのが見えた。

 彼が知らないこと。それは、私にはもう計画があるということ。完璧で、緻密で、絶対に失敗しない計画が。

 L市は、その第一歩にすぎない。

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家族の縁を切った日、兄たちはすべてを失った

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長兄:「なぜ最近、こんなに体調が悪いんだ?」――彼女がもう滋養強壮剤を届けてくれないからだ。
次兄:「会社のファイアウォールは、なぜこうも問題ばかり起こす?」――彼女がメンテナンスに来なくなったからだ。
三兄:「新薬の開発が遅々として進まないのはなぜだ?」――彼女が治験をしなくなったからだ。
四兄:「どうしてこんなにつまらない脚本しか上がってこない?」――彼女がもう執筆しないからだ。
五兄:「この義肢は、なぜこんなに出来が悪いんだ?」――彼女が製作をやめたからだ。
六兄:「なぜチームが負けた?」――彼女が脱退したからだ。

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