盗まれた光

盗まれた光

拓海86 · 完結 · 31.4k 文字

887
トレンド
1.2k
閲覧数
275
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

私は暗闇の中で目を覚ました。血まみれになって、ボロボロのウェディングドレスを着ていた。

五年間の記憶、完全に空白だった。

天使のような顔をした小さな女の子が、自分は私の娘だと言った。

琥珀色の瞳をした男性が、自分は私の夫だと主張した。

二人とも嘘をついていた。

しかし最も恐ろしいことは、嘘そのものではなかった。真実が明らかになったとき、私がその嘘に恋をしていたことを発見したことだった。

彼女は私の娘ではなかったが、私は彼女のために死ねるだろう。

彼は私の夫ではなかったが、彼の触れ合いは私の心を砕いた。

チャプター 1

 冷たい石が、死神の口づけのように私の頬に押し付けられていた。

 ゆっくりと目を開けると、頭蓋骨を大槌で殴られたかのようにガンガンと痛んだ。視界はぼやけ、暗闇の中で揺らめく蝋燭の灯りが見えるだけだった。鼻をつくのは、濃密で鉄錆びのような、吐き気を催すほどの血の臭い。そして、鼻腔にまとわりつく黴臭い腐敗臭。

『ここ、一体どこ……?』

 身を起こそうとすると、何かが強く手首を引いた。見下ろせば、重々しい鉄の鎖が両手を縛りつけ、その先は石壁に打ち込まれた環に繋がれている。金属が岩肌に擦れ、身の毛もよだつような軋み音を立てた。

「なんなの、これ……」私の囁き声が、閉ざされた空間に虚しく響いた。

 なんとか上体を起こした私は、そこで自分が着ているものに気づいた。それは、ぼろぼろになった純白のウェディングドレスだった。かつては最高級のシルクだったはずの生地は、どす黒い血の染みで汚れ、ところどころ裂けて下の白い肌が覗いている。裾は泥と血でごわごわに固まっていた。

『ウェディングドレス? そうだ、私は教会にいたはず……』

 記憶の断片が洪水のように蘇ってきた。ステンドグラスから差し込む陽光、オルガンが奏でる結婚行進曲、祭壇で黒のタキシードに身を包んで私を待つ悟の姿。ヴァージンロードを歩む私を見つめる、彼の愛に満ちた瞳……。

「悟……」祈るように彼の名を囁く。「私たちの結婚式……。どうして、私はここに?」

 私は夢中で鎖を揺さぶった。ガシャン、ガシャンという金属音が、暗闇にけたたましく響き渡る。

 改めて周りを見回すと、そこは古い石造りの酒蔵のようだった。分厚い石壁は苔に覆われ、隅には古いオーク樽が積まれている。壁の鉄製燭台に立てられた数本の蝋燭が、か細い炎を揺らし、この圧迫感のある空間をかろうじて照らしていた。

 壁に彫られた紋様に、私の視線が釘付けになる。蛇を掴む鷲、それを囲むオリーブの枝。それは……黒川家の家紋だった。

『そんな、ありえない。黒川家は悟の敵のはず。どうして私が、その縄張りに?』

 さらに背筋を凍らせたのは、石壁にびっしりと刻まれた爪痕だった。深いものから浅いものまで、無数の引っかき傷が、誰かがここで長い間監禁されていたことを物語っていた。

「誰かいませんか!」私は声を限りに叫んだ。「助けて! ここはどこなの!」

 私の声は酒蔵の中に虚しく響き渡り、返ってくるのは死のような静寂だけだった。

 直前に何があったのか必死に思い出そうとするが、幸せな結婚式の光景から先は、記憶がぷっつりと途切れていた。悟の笑顔、神父様の祝福、ゲストの拍手……。それらの記憶は、まるで数分前の出来事のように鮮やかなのに。

 なのに、なぜ私はここにいるのだろう? なぜウェディングドレスが血まみれになっている? この傷は一体いつ、どこで……?

 自分の体を見下ろすと、腕や脚に身に覚えのない痣や引っかき傷が無数にあることに気づいた。中には治りかけて薄い傷跡になっているものもあり、明らかに今しがたできた傷ではなかった。

『いつ、こんな怪我を? どうして、何も思い出せないの?』

 私が絶望に沈みかけた、まさにその時。階段の方から、微かな足音が聞こえてきた。子供のものと思われる、軽くて小さな足音だ。

 蝋燭の灯りに照らされ、酒蔵の入り口に小さな人影が現れた。五歳くらいの女の子だ。柔らかなくせっ毛の黒髪に、薄暗がりの中でもきらきらと輝く翠色の瞳。上品な白いワンピースを身につけた姿は、まるで小さな天使のようだった。

 私を驚かせたのは、その子が少しも怖がる様子なく私に歩み寄り、小さな顔を心配そうに曇らせていたことだった。

「ママ、やっと目が覚めたのね!」愛らしい声が酒蔵に響いた。「すごく心配したんだから」

 思いがけない呼びかけに、私は完全に度肝を抜かれ、目を丸くした。

「ママ……?」私はかろうじて掠れた声を絞り出した。「お嬢ちゃん、人違いよ……私に子供はいないわ」

 女の子はこてんと首を傾げ、その輝く翠色の瞳に困惑の色を浮かべた。

「でも、パパの直樹が言ってた。ママは病気で、たくさんのことを忘れちゃったんだって」少女は無邪気に言った。「パパ、上で泣いてるよ。ママに会いたくてたまらないって」

「パパ?直樹? 違う……違うわ。私の夫は、悟……」

 少女は一歩近づき、その小さな手をそっと私の頬に触れさせた。その感触はあまりにも温かく、あまりにも馴染み深く、私の心臓を跳ねさせた。

『どうして? どうしてこの子の温もりが、こんなにも不思議なくらい懐かしいの?』

 小さな手が私の頬に触れた瞬間、ぼやけた映像が脳裏を駆け巡った。

 血……一面の血……。

 怒りに満ちた男の咆哮、その声は憤怒と苦痛に満ちていた……。

 私の悲鳴、胸が張り裂けそうな叫び声……。

 教会の鐘の音と、銃声……。

 そして、記憶の中で重なり合う二人の男の顔、一人は悟の、優しく端正な顔立ち。もう一人は……もう一人は、輪郭はぼやけているのに、危険な匂いを放っている……。

「あっ!」私は頭を抱え、ガラスの破片のように脳を切り裂く記憶の断片に苦悶した。

「ママ、大丈夫?」私の反応に怯えたのか、少女の瞳に涙が浮かんだ。

 私はぜえぜえと息をつき、なんとか落ち着こうとした。この子の心配そうな表情を見ていると、心の中に奇妙な庇護欲が湧き上がってくる。

「あなた……名前は?」私は弱々しく尋ねた。

「由美子」彼女は涙を拭った。「私の名前は、黒川由美子」

 黒川……またその名前。

「ママ、どうして家族だって忘れちゃったの?」由美子は無邪気に尋ねる。「パパが言ってた。由美子が一緒にいれば、きっとママは思い出してくれるって」

『この子……どうして見ていると、こんなにも不思議な既視感を覚えるの? でも、私に子供はいないはず……。悟と結婚したばかりのはずなのに……』

 頭の中が混乱していた。私の記憶が語ることと、目の前の現実が示すことが、全く食い違っている。一体どちらが真実なのだろう?

 由美子は私の隣にちょこんと座り、その小さな手で私の手を握った。

「ママ、お手々が冷たい」彼女は心配そうに言った。「パパが、ママに食べ物を持っていくようにって」

 そう言って、彼女は後ろに置いていた小さな籠からパンと牛乳を取り出し、そっと私に差し出した。

「パパが言ってたよ、ゆっくり食べるんだよって。ママ、ずっとちゃんと食べてなかったから」

『ずっとちゃんと食べてなかった? 私は結婚披露宴でディナーを食べたばかりなのに……』

 しかし、胃は確かにぐうっと鳴り、空腹感が津波のように押し寄せてきた。私は機械的にパンを受け取り、かじりつく。食べ物の味は本物で、空腹もまた本物だった。

「由美子……」私はそっと言った。「今日が何月何日か、教えてくれる?」

 少女は少し考えてから言った。「今日は九月十五日だよ」

「何年?」

「二〇二四年だよ、もちろん」彼女は当たり前のように答えた。

 二〇二四年……私の記憶が正しければ、結婚式は二〇一九年のはずだった。

 五年……丸々五年間の空白。

「ママ、すごく混乱してる顔してる」由美子は優しく私の髪を撫でた。「パパが言ってた。ママは少しずつ思い出すって。あまりにも辛いことがあったから、脳が忘れることを選んだんだって」

 あまりにも辛いこと? 五年間もの人生を忘れてしまうほど、辛いこととは一体何なのだろう。

 私は自分の娘だと名乗るこの小さな天使をじっと見つめた。

『いや、ありえない。私に五歳になる娘がいるなんて』

 しかし心の奥底で、ある声が静かに囁いていた。もしかしたら、もしかしたら、この全てが現実なのかもしれない、と。

 由美子は立ち上がり、帰る準備を始めた。階段の麓で、彼女は私を振り返った。

「ママ、パパが今夜、会いに来るって言ってたよ」その声は羽のように軽かった。

 そう言い残すと、彼女の小さな姿は階段の上へと消え、遠ざかる軽い足音だけが残された。

 冷たい酒蔵に一人取り残された私の心に、得体の知れない恐怖が湧き上がってきた。忘れてしまったことを思い出すのと、永遠に思い出せないのと、どちらがより恐ろしいのか、私には分からなかった。

 しかし、一つだけ確信していることがあった。今夜、直樹と名乗る男が現れた時、この五年間で一体何が起こったのか、その真実を知ることになるだろう。

最新チャプター

おすすめ 😍

双子とヤクザの父親

双子とヤクザの父親

12.3k 閲覧数 · 連載中 · 蜜蜂ノア
予期せぬ運命の巡り合わせで、彼女はクラウンヘイブンで最も権威あるマフィアのボスと関わることになった。その出会いは一人の子供を授かることとなり、彼女は止むを得ない逃避行を余儀なくされた。

六年の月日が流れ、二人は思いがけず再会する。彼女は必死に彼から距離を置こうとするが、運命は異なる計画を用意していた。

驚くべきことに、彼は突然現れ、彼らの愛らしい子供を抱きしめながら、大胆に彼女に詰め寄る。「俺たちの子供を産んでおいて、逃げられると思ったのか?」

彼女は凍りついたように立ち尽くし、言葉を失う。彼こそ、畏怖の念を抱かせる帝国の君主だった。彼女は二人の世界があまりにもかけ離れていて、決して交わることはないと思い込んでいた。

しかし、彼女は知らずのうちに、この不屈の王の真実の愛となっていたのだった。
再婚後、クズ元夫が私に土下座した

再婚後、クズ元夫が私に土下座した

51.5k 閲覧数 · 連載中 · ニワハナ
長きにわたって、彼女は半身不随となった夫を献身的に看病し、時に自らの身を危険に晒して治験薬の投与にも協力した。自らの健康を蝕まれながら、夫を死の淵から引き戻したのだ。

しかし、夫がついに自力で立ち上がれるほど回復したその日、彼は初恋の女性を腕に抱き、こう言い放った。
「これからの人生、俺は彼女と、彼女のお腹の子を守っていく」

打ちのめされた彼女が離婚を切り出すと、夫は冷徹に彼女の口座をすべて凍結し、無一文のまま家から追い出し、嘲笑うように吐き捨てた。
「俺がいなければ、お前には何の価値もない」

彼女が妊娠検査薬をそっと隠し持ち、すべてに別れを告げて永遠に立ち去るまで、夫が慌てふためくことはなかった——。
鬼畜社長が離婚後に豹変!?甘えん坊な元夫の執着愛

鬼畜社長が離婚後に豹変!?甘えん坊な元夫の執着愛

68.6k 閲覧数 · 連載中 · 鯨井
篠崎アエミが最も後悔したことは、すべてを捨てて榎田神也と秘密裏に結婚し、卑屈に彼の傍らにいて、自分自身を失ってしまったことだった。

初恋が帰国し、彼女は彼を要らないと言った。

離婚後、彼女は人生の頂点に立った。

トップレベルのデザイナー無憂は彼女だった。
トップクラスの名門が失った令嬢も彼女だった。
手のひらを返せば雲を作り、手のひらを返せば雨を降らせる株の神も彼女だった。
長年の結婚生活を終わらせたら、夫と息子が泣きついてきた

長年の結婚生活を終わらせたら、夫と息子が泣きついてきた

13.7k 閲覧数 · 連載中 · 白石 茉鈴​
長年の婚姻生活の中で、夫と息子の目に映る私は、ただの「最大の恥」でしかなかった。

あの女のために、何度も私を置き去りにした二人。そして今回の件で、私はようやく完全に目が覚めた。

彼らは、私の愛を受け取るに値しない。

だから私は、正式に離婚協議書を差し出した。
すると、あろうことかこの二人は、声を揃えてこう言ったのだ。
――本当に深く愛していたのは、私の方だった、と。

ふん、今さら一体、何の真似のつもりかしら。
妊娠を隠して離婚します

妊娠を隠して離婚します

38.3k 閲覧数 · 連載中 · ユイ
「絢香、俺から逃げられるとでも思うな!」
九条雅人は彼女の顎を荒々しく掴み、低く唸った。

絢香の頬は屈辱と興奮で真紅に染まったが、その声にはまだ意地が残っていた。「あなたこそ、私に執着しているだけじゃないの?」

雅人は冷酷に鼻で笑った。
「離婚してからどれほど経った? それでもう俺の『ルール』を忘れたか。お前の身体は、今でも俺をこんなによく覚えているくせに。……ほら、咥えろ」

熱を帯び、恐ろしいほどに猛り狂った彼の太いものが、絢香の顔を容赦なく叩いた。

雅人は冷たく笑う。
「俺から離れられるなんて夢にも思うな、絢香。お前は俺だけのものだ」

——

3年間の契約結婚の間、霧島絢香は「雅人が冷徹な人間だから、その心を溶かすことができないのだ」と思い込んでいた。
しかし、彼が桜井陽菜の妊婦健診に付き添い、彼女が少しでも不快な思いをしないよう、見たこともないほどの優しさと甘やかし方で接している姿を目撃したとき、絢香はついに悟った。彼は人を愛せないのではない。ただ、自分を愛していなかっただけなのだと。

絢香は静かに離婚届にサインし、自身の「妊娠診断書」を胸に抱いて彼の元を去った。

だが、絢香が完全に姿を消した瞬間、雅人は狂わんばかりになり、街中を血眼になって彼女を捜し回った。

ついに再会を果たしたとき、雅人の瞳は血走り、その声は掠れていた。
「絢香、俺が悪かった……頼む、俺の元に戻ってきてくれ」
天才デザイナーの私と三つ子を、大富豪は取り戻したい

天才デザイナーの私と三つ子を、大富豪は取り戻したい

64.4k 閲覧数 · 連載中 · 月岛澪
実の父親と継妹にハメられ、私は瀧本知暁と一夜の過ちを強制された。
屈辱に塗れ、身一つで夜逃げするように国を去った私は、その後に彼の「三つ子」を身ごもっていることに気づく。

――6年後。
私は世界に名を馳せる天才デザイナーとなり、奪われたすべてを取り戻すために帰国した。
しかし、悪辣な嘘に目を曇らされた知暁は、私を激しく憎み、「仇敵」として冷酷に立ちはだかる。

やがてすべての真実が白日の下に晒された時、彼は己の過ちに絶望し、プライドを捨てて泣きながら私に許しを乞うた。
だが、傷つけられた私の心はもう戻らない。私は彼の懇願を、冷徹に突き放した。

――もう遅いわ。あなたを一生、許すつもりはない。

そう誓ったはずの私だったが、予想だにしない誤算があった。
私たちが産んだ愛らしい三つ子たちが、今さら戻りたいと泣く父親の、まさかの最強の味方として動き出したのだから。
追放された私が真の継承者だった件。今さら戻れと言われても、もう手遅れです

追放された私が真の継承者だった件。今さら戻れと言われても、もう手遅れです

141.6k 閲覧数 · 連載中 · 星埜雪奈
家族に捨てられ、私はようやく偽りの温もりを切り捨てた。
けれど、私の本質を隠し通すことは誰にもできない。
隠された私の正体は、この国で最も裕福な一族の継承者。
かつての家族が私を見失っている間に、私は全ての支配者となり、この街の頂点に君臨する男の視線を独占する。
彼が私に捧げる愛は、ただの寵愛ではない――世界を敵に回してでも守り抜く、狂おしいまでの執着だ。
元恋人の叔父に拾われた夜、私は彼という名の「毒」に溺れる

元恋人の叔父に拾われた夜、私は彼という名の「毒」に溺れる

11.5k 閲覧数 · 連載中 · 南宮
元恋人に裏切られ、冷たい玄関先で殺意を向けられたあの日。
私を見捨てた男ではなく、彼が一番恐れていた「危険な叔父」が、暗闇から現れた。
その腕の中だけが、この二年で初めて私を孤独から救い出した。
「次、誰かが君を傷つけたら、こうするんだ」 渡された銃の重みが、私の心に深く刻まれる。
私は逃げ出したかったはずなのに、いま、彼の甘い視線から離れられずにいる。 救いなどいらない。
ただ、この危険な男の「所有物」になりたい。
溺愛令嬢の正体は、まさかの霊能界トップ!?

溺愛令嬢の正体は、まさかの霊能界トップ!?

376.6k 閲覧数 · 連載中 · 朝霧祈
原口家に取り違えられた本物のお嬢様・原田麻友は、ようやく本家の原田家に戻された。
──が、彼女は社交界に背を向け、「配信者」として自由気ままに活動を始める。
江城市の上流社会はこぞって彼女の失敗を待ち構えていた。
だが、待てど暮らせど笑い話は聞こえてこない。
代わりに、次々と大物たちが彼女の配信に押しかけてくるのだった。
「マスター、俺の命を救ってくれ!」──某財閥の若社長
「マスター、厄介な女運を断ち切って!」──人気俳優
「マスター、研究所の風水を見てほしい!」──天才科学者
そして、ひときわ怪しい声が囁く。
「……まゆ、俺の嫁だろ? ギュってさせろ。」
視聴者たち:「なんであの人だけ扱いが違うの!?」
原田麻友:「……私も知りたいわ。」
妻が去り、妊娠を知った俺は、ただ泣き崩れるしかなかった

妻が去り、妊娠を知った俺は、ただ泣き崩れるしかなかった

610.4k 閲覧数 · 連載中 · 蛙坂下道
鈴木七海は、中村健に好きな人がいることをずっと知っていた。それでも、彼との結婚を選んだ。
しかし、結婚して5年後、彼は離婚を切り出した。その時初めて、彼の想い人が私の父の隠し子(私の異母兄弟)だと知った。
離婚を決意した七海だったが、その時にまさかの妊娠が判明した。
冷酷非道な大物との政略結婚を強いられ、私は開き直った

冷酷非道な大物との政略結婚を強いられ、私は開き直った

40k 閲覧数 · 連載中 · 桜井 ゆい​
【前世】

ヤクザの家に生まれた宿命を恐れるあまり、私は幼馴染の周防文哉のもとへ逃げるように嫁いだ。

けれど結婚から五年――私は家畜のように囚われ、夫とその愛人に蹂躙され続けた。息絶えようとするその瞬間、最後に目に映ったのは、私の目の前で絡み合う二人の姿だった。


【転生】

再び目を開けると、婚約が公の場で発表されたあの瞬間に戻っていた。

周防文哉が愛おしそうに私を見つめ、優しく囁く。

「俺と結婚してくれ。」

次の瞬間――若きヤクザの組長が私の腕を掴み、力強く抱き寄せた。銃口は真っ直ぐ周防文哉に向けられている。

彼が、私の代わりに答えた。

「――断る」
知る前の夜

知る前の夜

9.1k 閲覧数 · 連載中 · bjin09036
ホテルの一室で、見知らぬ男に私をめちゃくちゃにさせた。

二日後、インターン先に足を踏み入れると、彼が社長のデスクの向こうに座っていた。

あの夜、私を喘がせた男にコーヒーを運ぶ日々。なのに彼は、まるで一線を越えたのが私のほうだと言わんばかりの顔をする。

***

始まりは賭けだった。終わりは、彼女が決して望んではならないただ一人の男だった。

ジューン・アレクサンダーは、見ず知らずの男と寝るつもりなどなかった。だが、夢にまで見たインターンを勝ち取り、その夜を祝っていた彼女は、勢い任せの無茶な賭けに背中を押され、謎めいた男の腕の中へと導かれる。熱を帯びた気配を纏い、寡黙で、そして忘れられない男。

もう二度と会うことはない――そう思っていた。
ところが初出勤の日、オフィスに入った瞬間――
彼が新しい上司だと知る。
最高経営責任者、その人だったのだ。

たった一夜、無謀に身体を重ねた男の下で働かなければならない。ヘルメス・グランデは権力者で、冷たく、そして絶対に手を出してはいけない存在。けれど二人の間に張りつめた緊張は、どうしても消えてくれない。

距離が縮まるほど、彼女の心と、二人の秘密を守り抜くことは難しくなっていく。