捨てられ令嬢ですが、隠していた才能が世界規模でした

捨てられ令嬢ですが、隠していた才能が世界規模でした

佐伯綾子 · 連載中 · 390.7k 文字

798
トレンド
54.7k
閲覧数
1.3k
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

「本当の娘」が現れた日、私は家族に捨てられた。

婚約者は私との婚約を破棄し、その日のうちに妹になった彼女へプロポーズ。
育ての親たちはわずかな金だけを渡し、私を家から追い出した。

――なら、好きにすればいい。

彼らは知らない。
私が、表では決して名を明かさない天才外科医であることを。
一枚の絵が億で取引される謎の画家であることを。
そして裏社会で“無敗の女王”と恐れられていることも。

さらには、彼らなど到底比べものにならないほどの財閥の正統後継者だということを。

やがて元婚約者は後悔し、偽りの妹は嫉妬に狂っていく。
そんな中、かつて私を冷たく切り捨てた傲慢なCEOまでもが、執着するように私を追い始め――?

「今さら、もう遅いわ」

捨てられたはずの私が、すべてを手に入れる。
最強令嬢による、痛快逆転シンデレラストーリー。

チャプター 1

「紬、お前はもう岩崎家の子じゃない。お前の本当の親はスラム街に住んでいる」

「二十年育ててやった恩を返せなんて言わない。ただ岩崎家を出て、真乃に席を譲れ。……それだけでいい。約束できるか?」

三か月前の両親の言葉が、いまも耳の奥にこびりついている。

あの冷えきった目。今すぐ清宮紬を叩き出したい――そう顔に書いてあった。

それなのに、今夜。

清宮紬のためだという見送りの席で、岩崎のお父さんはお守りを差し出した。

「紬、これは父さんが拝んでもらったんだ。持っていけ。無事でな」

絞り出したような哀しみ。名残惜しげな身振り。わざとらしさが、痛いほど滲んでいる。

清宮紬は凍てつく花みたいに、伏せたまなこを揺らさない。岩崎家の薄っぺらな情に合わせる気などさらさらなく、お守りを受け取ると淡々と尋ねた。

「……もう、行っていい?」

岩崎成夫が一瞬、顔をこわばらせる。父娘情深い芝居が、そこで息切れした。

「清宮家がまだ来てない。もう少し待て」

「門のところ、見てきます」

服装は質素。頭の先からつま先まで黒と灰でまとめ、雪みたいに白い顔だけが不釣り合いなほど整っている。

ただ、その精緻さには生気が欠けていた。

岩崎成夫は腹の底の苛立ちを押し殺し、去っていく背を見送る。拳がきゅっと固まる。

「ほら、見なさいよ!」

母の白石琴音が歯を食いしばり、岩崎成夫のそばで吐き捨てる。

「この子、性格が気味悪いって言ったでしょ。ちっとも私たちの血じゃないの丸わかり! やっぱりスラム街の下層民よ!」

岩崎成夫はワイングラスを指先で弄び、眼鏡の奥で算段を光らせた。

「この気性だ。スラム街に戻れば、痛い目を見るさ」

三か月前――岩崎家の叔母さんが重症でICUに入った。

清宮紬は自ら肝移植の可能性を探ろうとした。だが、その「孝心」が皮肉にも真実を暴いた。清宮紬は岩崎家の血ではなかったのだ。

岩崎成夫と白石琴音は金に糸目をつけず、人脈を総動員して失散した実の娘を探した。拍子抜けするほど早く見つかり、二か月も経たないうちにスラム街の番号から連絡が入る。相手は清宮紬の引き取りを名乗り、今日、迎えをよこすと言った。

二十年前、岩崎家が病院で子を産んだ日は、情勢が荒れていた。

白石琴音は当時の医者の杜撰さを思い出すたび腸が煮えくり返る。実の娘は外で流浪し、自分は清宮紬を贅沢に育ててしまった――。だが体面のため、愚痴は陰で噛み砕くしかなかった。

その話を聞きつけ、送別会の本当の主役――岩崎真乃が、珠光をまとったドレスでわざとらしく首を傾げる。

「パパ、ママ……相手って本当にお姉ちゃんの家族なの? 詐欺だったらどうするの? スラム街って治安が悪いって聞くし、人身売買とか……」

「放っときなさい。外で野垂れ死にでもすればいいわ!」

白石琴音が吐き捨てた。

岩崎真乃の口元が一瞬だけ得意げに歪み、すぐに押し殺される。それでも心配そうに眉を寄せた。

「……私、やっぱりお姉ちゃんを見送りに行くね」

岩崎家のお嬢様。可憐で聞き分けがよく、骨の髄から高貴な血が流れている――そう見せねばならない。

清宮紬は門のそばに立っていた。背後の繁栄も喧噪も、まるで自分とは無関係だと言わんばかりに。

使用人の小川さんが、清宮紬の旅行鞄をどさりと地面へ放った。中から紙束がばらばらと散る。

清宮紬は横目でそれを見た。冷えた水面みたいな瞳が、すべてを見透かすように静かだ。

「すみませんねえ、お嬢さま。私、不器用で。こんなガラクタ、散らしちゃって」

小川さんは拾う気もない。

岩崎真乃が戻ってから、使用人たちは風向きを読んで清宮紬を平気で踏みつけた。

清宮紬は紙に視線を落とし、胸の奥がちくりと疼く。――これは「ガラクタ」じゃない。彼女が積み上げた証明だ。

「お姉ちゃん、こんなゴミ紙を宝物みたいに? スラム街に持っていって、ご飯に換えられるの?」

岩崎真乃がちょうどよく現れ、小川さんと目配せを交わす。見下ろす視線には優越感が満ちていた。

清宮紬は構わず屈んで拾い集める。いちばん上の一枚に、ちらりと『脳端植入研究報告』の文字が走った。

二十年、上等な暮らしをしてきた肌は白く光り、細い手首には手鏡みたいに眩いブレスレット。手だけで嫉妬を買う美しさだった。

岩崎真乃は、それが岩崎家の伝世の品だと知っている。

「……それ、どこから?」

岩崎真乃は歯噛みし、苛立ちを隠さず詰め寄った。

「北条家と縁談する人しか貰えないって言ってたじゃない! あんた岩崎家の子でもないし、千隼兄さんだってあんたなんか娶らない。なのに、なんで!」

清宮紬は立ち上がり、書類を鞄に戻してから、丁寧にファスナーを閉める。ゆっくり振り向き、氷のように岩崎真乃を見下ろした。

「欲しいなら、そう言えば。そんなに怒鳴らなくても」

図星を刺され、岩崎真乃は噛み殺した。だが清宮紬がブレスレットを指先で滑らせ、外しかけるのを見ると、得意げに顎を上げる。

「忠告してあげる。身の丈に合わないものを欲しがらないことね。自分がどぶの下層民だって、わかってないの?」

「下層民って、何?」

清宮紬は二本の指でブレスレットをつまみ、墨色の瞳に冷たい刃を浮かべた。

「誰が決めたの?」

岩崎真乃が手を伸ばして奪おうとする。

「決めるまでもないでしょ? 聞いたわよ、清宮家ってあんた以外に息子が三人もいるんだって。貧乏人は産むのが好きなのよ。養いきれなくて、ゴミ山で漁って生きるんでしょ!」

――けれど、指が触れるより早く。

清宮紬がふっと力を抜く。

ブレスレットは、足元へ落ちた。

最新チャプター

おすすめ 😍

つわり発覚!? 禁欲上司に甘やかされすぎて、胸キュンが止まりません!

つわり発覚!? 禁欲上司に甘やかされすぎて、胸キュンが止まりません!

40.9k 閲覧数 · 連載中 · 佐伯綾子
結婚3周年の記念日、私は妊娠検査薬の書き込み(結果)をプレゼントとして夫に贈った。だけど、返ってきたのは1枚の写真――女の胸に添えられた、男の手。その指に光る結婚指輪が、すべてを物語っていた。

それは私の夫の手。――彼は、浮気をしていた。
実の妹と私を騙した冷徹夫、失うものすら残らない地獄へようこそ

実の妹と私を騙した冷徹夫、失うものすら残らない地獄へようこそ

5.6k 閲覧数 · 連載中 · ^野田恵^
来栖琴音は、自分たちの結婚が本物の愛で結ばれていると信じて疑わなかった。

この3年間、彼女は自分のキャリアさえも犠牲にして、完璧な妻であり続けようと尽くしてきた。
――だが、そんなおとぎ話は、夫の裏切りを知った瞬間に無惨にも崩れ去る。

不倫の真相を追う彼女の前に、次々と暴かれていく歪んだ欺瞞の数々。
あろうことか実の妹との禁断の不貞、横領された会社の資産、そして琴音の社会的名声を徹底的に失墜させようとする冷酷な陰謀――。
彼は彼女の心を壊しただけではない。彼女の未来そのものを盗み取っていたのだ。

無駄にされた10年分の対価を、今度は私がすべて奪い尽くす番。
――最後に何もかもを失って絶望するのは、あなたよ。
転生して絶縁したら、元家族は破滅に

転生して絶縁したら、元家族は破滅に

23.8k 閲覧数 · 連載中 · ワニノコ
名門古川家の生まれの娘・古川朱那は、前世、父・古川邦夫と三人の兄(礼和、礼希、礼人)が養妹・周防天華を無条件に贔屓し、天華の陰険な陥れに遭い、理不尽に死んだ。
22 歳、天華に陥れられた日に生まれ変わった朱那は、過去の卑屈さを捨て、天華の悪事を暴き、偏心な家族に毅然と立ち向かう。芸能界で演技の才能を開花させ、自らの人生を切り開くため、全力で逆襲する。
不倫夫を捨てた夜、私は新しい彼に抱かれる

不倫夫を捨てた夜、私は新しい彼に抱かれる

2.7m 閲覧数 · 連載中 · 七海
初恋から結婚まで、片時も離れなかった私たち。
しかし結婚7年目、夫は秘書との不倫に溺れた。

私の誕生日に愛人と旅行に行き、結婚記念日にはあろうことか、私たちの寝室で彼女を抱いた夫。
心が壊れた私は、彼を騙して離婚届にサインをさせた。

「どうせ俺から離れられないだろう」
そう高をくくっていた夫の顔に、受理された離婚届を叩きつける。

「今この瞬間から、私の人生から消え失せて!」

初めて焦燥に駆られ、すがりついてくる夫。
その夜、鳴り止まない私のスマホに出たのは、新しい恋人の彼だった。

「知らないのか?」
受話器の向こうで、彼は低く笑った。
「良き元カレというのは、死人のように静かなものだよ?」

「彼女を出せ!」と激昂する元夫に、彼は冷たく言い放つ。

「それは無理だね」
私の寝顔に優しくキスを落としながら、彼は勝ち誇ったように告げた。
「彼女はクタクタになって、さっき眠ってしまったから」
「田舎者」と笑われた私、実は裏社会の女帝でした ~冷徹社長に正体がバレて溺愛される~

「田舎者」と笑われた私、実は裏社会の女帝でした ~冷徹社長に正体がバレて溺愛される~

116.3k 閲覧数 · 連載中 · 68拓海
ある名家から「不吉な忌み子」として捨てられ、世間からは「ただの田舎娘」と嘲笑される少女。
しかし、その正体は……
ファッション界を牽引するカリスマであり、香水界の伝説的な始祖。
さらには裏社会と政財界の命脈を握り、大物たちが跪く「影の支配者」だった!

長きにわたる雌伏の時を経て、彼女はついに帰還する。
奪われたすべてを取り戻し、自分を蔑んだ一族や世間を足元にひれ伏させるために。

一方、彼女の前に立ちはだかるのは、商業界の帝王と呼ばれる冷徹な男。
彼は知らなかった。裏でも表でも自分を脅かす最強の宿敵が、目の前で愛らしく微笑むこの少女だということを。

互いに正体を隠したまま、幾度もの交戦を重ねる二人。
そのスリリングな攻防の中で、二人は互いの秘密と脆さを共有し、やがて敵対関係は唯一無二の愛へと変わっていく。

そして危機が訪れた時、二人はついに仮面を脱ぎ捨て、並び立って頂点へと君臨する。

「君の『仮面』はすべて剥がした。次は、その心を裸にする番だ」
空気のようだった妻が消えた日、俺の空っぽな日常が剥がれ落ちる

空気のようだった妻が消えた日、俺の空っぽな日常が剥がれ落ちる

18.3k 閲覧数 · 連載中 · わたあめ
妻の存在は、いつだって当たり前で、ただそこにあるだけのものだと思っていた。
だが、帰宅した俺を迎えたのは、もぬけの殻になったクローゼットと、机の上に置かれた離婚届だけだった。
三年間、彼女は何を思い、何に耐えていたのか。
初めて向き合った彼女の不在は、何よりも鋭く俺の心臓を抉る。
失って初めて気づく、俺を誰よりも愛していたはずのその手。
タイムリミットが迫る中、俺は彼女という「唯一の場所」を取り戻すために奔走する。
——もう遅いのか、それともこれはやり直すための罰なのか。
未熟

未熟

3.6k 閲覧数 · 連載中 · ほしの なお
結婚3周年の日、見知らぬ相手からのメッセージが私の命を救い、同時に完璧だった結婚生活を木端微塵に砕いた。夫は親友と不倫し、義母は犯罪組織を牛耳る黒幕だった。
嘘の巣窟に囚われた私は、冷徹で権力を持つ弁護士にすがり、復讐を誓う。妊娠の偽装、証拠集め――奴らをすべて破滅させてやる。
だが、私を導く謎の「見知らぬ人」はいったい誰なのか? そして、その弁護士が本当に求めているものとは――?
元妻を追う冷酷社長、プライドを捨てて泣き崩れる

元妻を追う冷酷社長、プライドを捨てて泣き崩れる

13.8k 閲覧数 · 連載中 · ほしの ちなつ
愛なき五年間の結婚生活。私は『妻』ではなく、ただの置物だった。夫の愛などもういらない。
私は静かに家を捨て、彼の知らない子供と共に旅立った。
だが、私の消えた世界で、冷酷なはずの夫の歯車が軋み始める。
冷徹な社長の面影は消え、今や彼は狂気じみた執着で、この街のすべてを焼き払う勢いで私を追い求めている。
死んだはずの妻が、自分と「瓜二つ」の双子を連れて帰ってきた

死んだはずの妻が、自分と「瓜二つ」の双子を連れて帰ってきた

157.9k 閲覧数 · 連載中 · 白石
5年前、身に覚えのない罪で投獄され、身重の体で捨てられた私。
異国の地で必死に生き抜き、女手一つで双子の息子を育て上げた。

平穏を求めて帰国した私だったが、運命は残酷だ。
かつて私を捨てた元夫・ベンジャミンに見つかってしまったのだ。

「その子供たち……俺にそっくりじゃないか」

彼の目の前にいるのは、彼を縮小したかのような「生き写し」の双子。
ベンジャミンは驚愕し、私たちを引き留めようとする。
しかし、息子たちは冷酷な父親を敵視し、断固として拒絶するのだった。

「僕たちを捨てた男なんて、父親じゃない!」

やがて明らかになる、あの日の「火事」の真相と、悪女オリビアの卑劣な罠。
すべての誤解が解けた時、彼が差し出す愛を、私は受け入れることができるのか?

憎しみと、消え残る愛の間で揺れる、会と許しの物語。
婚約破棄後、私はヤクザの組長と結婚した

婚約破棄後、私はヤクザの組長と結婚した

70.9k 閲覧数 · 連載中 · やもり
裏切りと陰謀が渦巻く世界で、妃那(えな)は突然の誘拐事件に巻き込まれる。
救いの手を差し伸べたのは謎めいた男・葉夜(かなや)だったが、彼の真意は読めない。
一方、妃那の宿敵であり自信家の祈葉(いのか)は、自らの美貌と魅力を武器に黒社会の頂点を目指すが、
思いもよらぬ残酷な試練に追い込まれていく。
誤解と嫉妬、愛と憎しみが絡み合い、
それぞれの思惑がやがて一つの危険な運命へと収束していく――。
舐めるつもり?なら、思い知らせてあげる

舐めるつもり?なら、思い知らせてあげる

38.9k 閲覧数 · 連載中 · 桜井 ゆい​
18年間、自分が実の娘でないとは知らずに生きてきた。ある日、荷物をすべて玄関の外に放り出され、街角に立ち尽くす私の前に現れたのは、噂では極貧だという「生家」から迎えに来た、見たこともない「兄」。

ところが、その兄が乗ってきたのはトラクターだった。

ガタガタと揺れるトラクターがたどり着いた先は、まるで古城のような大邸宅。そこで私は思い知る。本当の家族のもとに引き取られた私は、貧しくなるどころか、前よりずっと裕福になっていたのだ。

……だが、ちょっと待ってほしい。なぜ私には突然、婚約者というものが存在するのか。しかもその相手は、私の大学の教授だという。誰か、説明してくれないだろうか。
令嬢は離婚を機に大富豪への道を歩む

令嬢は離婚を機に大富豪への道を歩む

792.5k 閲覧数 · 連載中 · 蜜柑
天才陰陽師だった御影星奈は、かつて恋愛脳のどん底に落ち、愛する男のために七年もの間、辱めに耐え続けてきた。しかしついに、ある日はっと我に返る。
「瀬央千弥、離婚して」
周りの連中はこぞって彼女を嘲笑った。あの瀬央様がいなくなったら、御影星奈は惨めな人生を送るに決まっていると。
ところが実際は――
財閥の名家がこぞって彼女を賓客として招き入れ、トップ俳優や女優が熱狂的なファンに。さらに四人の、並々ならぬ経歴を持つ兄弟子たちまで現れて……。
実家の御影家は後悔し、養女を追い出してまで彼女を迎え入れようとする。
そして元夫も、悔恨の表情で彼女を見つめ、「許してくれ」と懇願してきた。
御影星奈は少し眉を上げ、冷笑いを浮かべて言った。
「今の私に、あなたたちが手が届くと思う?」
――もう、私とあなたたちは釣り合わないのよ!