見捨てられたルナ、竜に娶られる

見捨てられたルナ、竜に娶られる

大宮西幸 · 完結 · 17.9k 文字

991
トレンド
1.1k
閲覧数
6
追加済み
本棚に追加
読み始める
共有:facebooktwitterpinterestwhatsappreddit

紹介

「彼女と結婚するのは、あくまで一時的な策略に過ぎない」

ドアの隙間から男の声が漏れ聞こえてきた。低く、酷くぶっきらぼうな声。

「セリーン、分かっているだろう。あの魔物ハンターどもを遮る盾として、彼女の『帝国魔導師』という背景が必要だったんだ。彼女の体から生命魔力を残さず吸い尽くし、俺たちの子供を育て上げたら、あんな女いつでも捨てられるただのゴミだ」

私の手は宙に浮いたまま止まり、ウェディングドレスの裾が床に広がっていた。指先が、ガタガタと震えている。

5年。
5年間も尽くしてきた結果が、ただの『高級な輸血パック(魔力供給源)』だったなんて。

部屋の中から、女の甘ったるい笑い声が聞こえた。

「でもカエル、今日は一応あなたたちの結婚式よ? たえ彼女を愛していなくても、名目的には彼女がルナ(群れの女王)になるんじゃ……」

「あんな女にその資格はない」

カエルは一瞬の迷いもなく、女の言葉を遮った。

「俺のルナは、いつだって君だけだ」

私は手元のはめたダイヤモンドの指輪を見つめた。
いわゆる『運命の伴侶(メイト)』。

――本当に、笑わせてくれる。

チャプター 1

「彼女を娶るのは、ただの時間稼ぎだ」

扉の隙間から漏れてきた男の声は、低く、気だるげだった。

「セレネ、おまえも分かってるだろ。俺にはあいつの『帝国魔術師』って肩書が必要なんだ。あのウィッチャーどもを遠ざける盾としてな。――生命魔力を吸い尽くして、俺たちの子が育ったら、あとはいつ捨ててもいいただのゴミだ」

手が空中で止まった。婚礼衣装の裾が床を擦り、指先が小刻みに震える。

五年。

五年捧げて、結局は――高級な血袋。

扉の向こうで、女の甘ったるい笑い声がした。

「でもケイル、今日はあなたたちの結婚式よ。たとえ愛してなくても、彼女は名目上ルナで……」

「――あいつは不相応だ」

ケイルは一秒も迷わず遮った。

「俺のルナは、永遠におまえだけだ」

私は手元のダイヤの指輪を見下ろした。

いわゆる、運命の番。

笑わせる。

――私は扉を蹴り破った。

部屋の中の二人が同時に振り向く。新郎衣装のケイルは襟元を少しはだけ、琥珀色の瞳が私を見た瞬間、わずかに揺れた。セレネは彼の腕の中に寄りかかり、黒髪を白い寝間着に散らし、まるで白磁のような顔を覗かせている。

「邪魔ってわけ?」私はベールに手をかける。「だったら、魔術師塔から受け取った婚約の贈り物、全部吐き出しなさい。この結婚、こっちからお断りよ」

セレネの反応は、ありえないほど速かった。

さっきまでケイルの胸に縋っていた女が、次の瞬間には悲鳴を上げて後ろへ倒れる。両手で下腹を押さえ、純白の裾にじわりと赤が広がった。口元には黒い血が一筋。

「わ、私の子……! アルファ、お腹が……痛い……!」

血の中で震えるセレネを、ケイルが抱き起こす。そして私を見た。最初から罪状を決めている目。

「……何をした」

「何を、って?」私は冷たく笑った。「手すら上げてない」

言い終える前に、アルファの威圧が叩きつけられた。

膝が崩れ、私は床に膝をつく。ケイルは怒り狂った獣みたいに飛びかかり、片手で喉を締め上げたまま壁に叩きつけた。後頭部が石煉瓦にごんと当たり、視界がぐらりと暗む。

「おまえ以外に誰がやった。――悪辣な魔術師が」

握る力がさらに増す。私は必死に指を引き剥がそうとしても、息が吸えない。

「わたしは……触って……」

「まだ嘘を吐くのか!」

嫌悪が目いっぱいに満ちていた。

「俺の子を宿したセレネが妬ましくて殺そうとしたんだろ。エララ、おまえは……反吐が出る」

喉が、がり、と鳴った。

私は反射的に下腹を庇う。

そこにも、いる。

「ケイル……」

声にならず、口の形だけで言う。

「放して……私も、妊娠してる」

彼は私の手を一瞥し、鼻で笑った。

「罪逃れに、何でも言う」

ゴミを捨てるみたいに放り投げられ、床に転がった。口の中が血の味でいっぱいになる。

ケイルは呻くセレネを抱えたまま出ていき、振り向きもしない。

「祭壇へ引きずれ。陣を起動しろ。セレネが子を保てないなら――一滴ずつ吸い尽くしてやれ」

狼人の衛兵が二人、私に手を伸ばした。

「触るな!」私は魔術を――

「黙れ!」

首筋に掌底が落ちた。魔力回路の結節点を正確に打ち抜かれ、指先に灯りかけた光がぷつりと消える。

廊下。階段。地下へ。

婚礼衣装は石畳に擦れて擦り切れ、白布は裂け、その破片がずるずると尾を引いた。

地下祭壇。

刻印された玄鉄の鎖が手首に噛みつき、宙吊りにされる。

上階では、ケイルがセレネを慎重に寝台へ下ろしていた。通信水晶はつながったまま。

私は水晶に向かって言った。

「ケイル、必ず後悔する」

返ってきたのは、たった一言。

「――搾れ」

老祭司モーリスが破魔鋼のダガーを手に近づく。半年前、私が贈ったダガーだった。

「申し訳……ございません、エララ様」目を伏せ、私を見ない。

「私の魔力を搾れば、お前らは――」

刃が右手首を裂いた。

どく、と血が溢れ、金色の生命魔力が床の溝へ吸い込まれていく。符文の流路を辿って、上へ。何かが、吸っている。

私の根源。私と胎児の命。

寝台の上から、セレネの満足げな吐息。

「ん……気持ちいい……」

甘ったるい声。

顔から血の気が引いていく。

三十秒もしないうちに、下腹が唐突にひきつった。

温かい液体が腿を伝って落ちる。血の匂い。でも、それは全部、私のじゃない。

――私の子。

三か月の、小さな狼の子。

その父親は、別の女の寝台の傍にいた。

一度も、こちらを見ないまま。

最新チャプター

おすすめ 😍

社長の逃げた妊娠妻

社長の逃げた妊娠妻

24.5k 閲覧数 · 連載中 · ユイ
川崎佑哉は上半身裸のまま、江原安美の上に覆いかぶさり、大きな手で彼女の柔らかな胸を撫で上げた。

江原安美は甘い吐息を漏らしながら喘いだ。「もう我慢できない…ちょうだい…」

川崎佑哉は彼女の体をうつ伏せにひっくり返し、ペニスを彼女の柔らかな臀部の間で前後に擦りつけた後、背後から一気に挿入した。

「江原安美、たとえ離婚しても、お前は一生、俺の下で喘ぐしかないんだ。」


江原安美はまさか自分がいつか、夫・川崎佑哉と彼の愛人のために結婚指輪をデザインすることになるとは思わなかった。そしてさらに届いたのは、一通の離婚届だった。

彼女は迷わずサインし、彼への想いを断ち切り、妊娠検査の結果を隠して、海外へと旅立った。

その後、彼女は海外で大成功を収め、言い寄る男は数知れず。しかし彼は変わった。彼女に執着し、離れようとせず、目を赤くして「もう一度チャンスをくれ」と懇願した。

彼女の小さな宝物が飛び出して彼の前に立ちはだかり、腰に手を当ててこう言った。「ママに追いつきたいなら、まず列に並んでね!」
転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

転生して、家族全員に跪いて懺悔させる

338.5k 閲覧数 · 連載中 · 青凪
婚約者が浮気していたなんて、しかもその相手が私の実の妹だったなんて!
婚約者にも妹にも裏切られた私。
さらに悲惨なことに、二人は私の手足を切り落とし、舌を抜き、目の前で体を重ね、そして私を残酷に殺したのです!
骨の髄まで憎い...
しかし幸いなことに、運命の糸が絡み合い、私は蘇ったのです!
二度目の人生、今度は自分のために生き、芸能界の女王になってみせる!
復讐を果たす!
かつて私をいじめ、傷つけた者たちには、十倍の報いを受けさせてやる...
妻が去り、妊娠を知った俺は、ただ泣き崩れるしかなかった

妻が去り、妊娠を知った俺は、ただ泣き崩れるしかなかった

529.3k 閲覧数 · 連載中 · 蛙坂下道
鈴木七海は、中村健に好きな人がいることをずっと知っていた。それでも、彼との結婚を選んだ。
しかし、結婚して5年後、彼は離婚を切り出した。その時初めて、彼の想い人が私の父の隠し子(私の異母兄弟)だと知った。
離婚を決意した七海だったが、その時にまさかの妊娠が判明した。
転生して絶縁したら、元家族は破滅に

転生して絶縁したら、元家族は破滅に

32.9k 閲覧数 · 連載中 · ワニノコ
名門古川家の生まれの娘・古川朱那は、前世、父・古川邦夫と三人の兄(礼和、礼希、礼人)が養妹・周防天華を無条件に贔屓し、天華の陰険な陥れに遭い、理不尽に死んだ。
22 歳、天華に陥れられた日に生まれ変わった朱那は、過去の卑屈さを捨て、天華の悪事を暴き、偏心な家族に毅然と立ち向かう。芸能界で演技の才能を開花させ、自らの人生を切り開くため、全力で逆襲する。
溺愛令嬢の正体は、まさかの霊能界トップ!?

溺愛令嬢の正体は、まさかの霊能界トップ!?

318.9k 閲覧数 · 連載中 · 朝霧祈
原口家に取り違えられた本物のお嬢様・原田麻友は、ようやく本家の原田家に戻された。
──が、彼女は社交界に背を向け、「配信者」として自由気ままに活動を始める。
江城市の上流社会はこぞって彼女の失敗を待ち構えていた。
だが、待てど暮らせど笑い話は聞こえてこない。
代わりに、次々と大物たちが彼女の配信に押しかけてくるのだった。
「マスター、俺の命を救ってくれ!」──某財閥の若社長
「マスター、厄介な女運を断ち切って!」──人気俳優
「マスター、研究所の風水を見てほしい!」──天才科学者
そして、ひときわ怪しい声が囁く。
「……まゆ、俺の嫁だろ? ギュってさせろ。」
視聴者たち:「なんであの人だけ扱いが違うの!?」
原田麻友:「……私も知りたいわ。」
マフィア姫の帰還

マフィア姫の帰還

55.9k 閲覧数 · 完結 · Tonje Unosen
タリアは何年ものあいだ、母と義理の妹、そして継父と暮らしてきた。だがある日、ついにそこから逃げ出すことに成功する。

ところがその直後、自分にはまだ外に家族がいるのだと知る。そして本当に自分を愛してくれる人たちが大勢いることも――そんなものは今まで感じたことがなかった。少なくとも、彼女の記憶にあるかぎりでは。

タリアは人を信じることを学ばなければならない。新しくできた兄たちにも、ありのままの自分を受け入れてもらわなければならないのだ。
トップ暗殺者、学園に転生する

トップ暗殺者、学園に転生する

7.3k 閲覧数 · 連載中 · ミサキ
太平洋の孤島に響き渡る爆発音の中、私は敵と刺し違えることで、すべてに終止符を打った。
そして、目が覚めた。

16歳。肥満体型。顔中に広がったニキビ。冷え切った体育倉庫の片隅で、私は丸まっていた。
周囲から16年間ずっと忌み嫌われてきたこの肉体の中で、私はわずか3秒で状況を理解した――。

「死体への憑依、つまり――転生だ」

元の肉体の持ち主は、誰もが容赦なく踏みにじる、お人好しの「いじめられっ子」だった。
継母は慢性的な毒物で彼女の身体を破壊し、実の妹は彼女を裏切って罠に嵌め、クラスメイトは彼女を暗闇に閉じ込めて冷水を浴びせ、教師さえも一緒になって彼女を踏みつけにする。

だが、あいにく。
今この身体の中にいるのは、暗殺組織のトップだ。
地獄の底から這い上がってきた、一人の女だ。

私はまず、元の持ち主が昨夜味わった屈辱のツケをきっちりと払わせ、皮膚に残る毒素を洗い流した。
物理のテストでは満点をもぎ取り、超一流の弁護士を1分1秒の狂いもなく現場へ急行させて私の弁護に当たらせ、果ては市長自らに我が家の門を叩かせ、私の後ろ盾にならせた。

今世において、私に借りのある全ての奴らから、一筆一筆、その代償を血で購わせてやる。
私が囲っている億万長者

私が囲っている億万長者

9.6k 閲覧数 · 連載中 · ほしの ちなつ
私はただ、心の痛みを紛らわせたかっただけ。

彼は息を呑むほど美しく、落ちぶれていた。夫の裏切りがもたらした傷が完全に癒えるまで、彼をそばに置いておくつもりだった。

お金で彼の付き添いを買い、すべてのルールを私が決め、すべてを完全に掌握しているつもりだった。

けれど、私の隣で横たわるこの男の正体は、彼が語ったものとはまるで違っていた。

魅惑的な笑顔と抗いがたい容姿の下に隠されていたのは、仇敵から身を隠す億万長者の素顔だった。

今や彼は、私の生活に、私のベッドに、そして私の心に――完全に絡みついている。

身を引くことは、彼のそばにいることよりも、もっと危険かもしれない。
二度目はない 動じず咲く

二度目はない 動じず咲く

165.6k 閲覧数 · 完結 · Gloria Fox
結婚式の一ヶ月前、私は一年かけて自らの手で縫い上げたウェディングドレスを燃やした。

婚約者は身ごもった愛人を腕に抱き寄せたままそこに立ち、私を鼻で笑っていた。「俺がいなきゃ、お前なんて何の価値もない」

私はきびすを返し、この街で最も裕福な男の扉を叩いた。「ロック氏、政略結婚にご興味はおありですか? 千億ドル相当の株式――それに加え、未来のビジネス帝国も無料でお付けいたしますわ」
監禁から1年、捨てられた令嬢は元婚約者の叔父を娶る

監禁から1年、捨てられた令嬢は元婚約者の叔父を娶る

129.7k 閲覧数 · 連載中 · 鈴木楓花
監禁から1年。ようやく帰宅した今井心晴を待っていたのは、変わり果てた日常だった。
家族は心晴を探そうともせず、あろうことか姉の今井優奈のために盛大な誕生日パーティーを開いていた。
しかも、その横には心晴の元婚約者の姿が……二人は婚約していたのだ。
しかし、心晴はただの被害者ではなかった。
彼女は人知れず巨額の資産と強大なコネクションを築き上げていたのだ。
真実を知った心晴は、復讐の狼煙を上げる。
彼女が選んだ新たなパートナーは、なんと元婚約者の叔父だった。
「これからは私のことを『おばさん』と呼ぶのよ、優奈!」
お払い箱の杖は、夜に咲く

お払い箱の杖は、夜に咲く

5.9k 閲覧数 · 連載中 · 森川澪
「目が見えるようになった途端、手すりの杖を捨てるのね」

事故で盲目かつ失聴した夫を5年間、溢れる愛で献身的に支え続けた主人公。しかし、五感が戻った夫が最初に抱きしめたのは、かつて彼が愛した初恋の女だった。

家族からも夫からも裏切られた彼女は、未练を一切捨てて離婚を決意。

離婚の理由に「夫の夜の体力不足」という最大の屈辱を書き残し、結婚指輪を捨ててあっさりと家を出る。

夫の好みに合わせてこれまで隠していた「息をのむほど明艶な美貌」を解放し、夜の街へと繰り出した彼女は、一瞬で全場の視線を独占する。

バーのVIP席からその圧倒的な美女を凝視し、なぜか目が離せなくなっている元夫は、まだ気づいていない。それが、自分が「地味で退屈な女」だと見下していた元妻の真の姿だということに……
追放された偽令嬢、実は超財閥の真の令嬢

追放された偽令嬢、実は超財閥の真の令嬢

143.6k 閲覧数 · 連載中 · あざ鳥
「お前みたいな偽物の令嬢、さっさと山奥に帰れ!」

孤児だと判明した途端、彼女は養父母から冷酷に家を追い出され、婚約者も本物の令嬢へと乗り換えた。
彼らは、彼女がこれからド田舎で悲惨な生活を送るのだとあざ笑っていた。

しかし、彼女を迎えに来た実の家族は、なんと世界を牛耳る超巨大財閥の一族だった!
さらに、彼女自身もただの小娘ではない。その正体は、世界の医学界が平伏す伝説の天才医師だったのだ。

実家に戻るや否や、彼女は神業のようなメス捌きで次々と難病患者を救い、医療界の権威たちを圧倒していく。その圧倒的な実力に、誰もが恐れる冷酷なトップ御曹司でさえも彼女に惹かれ、無限額のブラックカードを差し出す始末。

一方、彼女を追い出した養父母の家業は倒産寸前に陥り、元婚約者も彼女の本当の姿を知って絶望の淵に立たされていた。
彼らが泣きついて許しを乞うても、彼女は冷たく言い放つ。

「今さら後悔しても、もう遅いわ」