死に戻り令嬢は、心を殺した夫に二度目の愛を誓う

死に戻り令嬢は、心を殺した夫に二度目の愛を誓う

猫又まる · 完結 · 23.1k 文字

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紹介

爆炎の中、夫の神崎空に抱きしめられながら、私はようやく気づいた。
「愛してる…!」
10年間、彼が綾辻家の財産目当てだと信じ込み、冷たく突き放してきた自分の愚かさに。私の叫びは、轟音にかき消された――はずだった。

次に目を開けた瞬間、そこは10年前の結婚初夜の寝室。
目の前には、まだ私の冷酷さで心を凍らせてしまう前の、若き日の神崎空が立っていた。
「大丈夫か?」
扉の向こうから聞こえる、不器用で優しい声。前世の私は、この声に背を向け、彼を客間に追いやったのだ。

(どうしよう、どうしよう!)
今、私が「そばにいて」と震える声で伝えたら、彼は信じてくれる?
突然優しくなった私を、不審に思うだけかもしれない。

でも、もう後悔はしない!
これは、勘違い妻が10年の時を逆行し、無愛想で不器用な旦那様の凍てついた心を、全力の愛で溶かしていく甘くて切ないやり直しラブストーリー!

チャプター 1

 綾辻穂弥視点

 このままじゃ死ぬっ!

 爆弾のカウントダウンが、00:00:30 を示していた。

 炎が私の顔をオレンジ色に照らし、立ち込める煙に息もできない。椅子に固く縛りつけられたまま、秒を刻むタイマーを眺める。心臓が肋骨を突き破らんばかりに激しく鼓動していた。

「神崎空!来ちゃだめ!あなたまで死んじゃう!」

 私はありったけの声で叫んだ。

 けれど、彼は業火の中へ突進してきた。

 その長身が濃い煙を切り裂く。顔には煤がつき、スーツはところどころ裂けている。それでも、あの深い瞳は変わらず、強い意志を宿していた。彼は私の元へ駆け寄り、必死にロープを解こうとする。

「あと十五秒――もう時間がない!」

 私は泣きじゃくった。

「お願いだから、逃げて!早く!」

 神崎空の手が一瞬止まり、そして、彼は私をその腕の中に引き寄せた。

「穂弥、君と一緒にいる」

 彼の声が、私の耳元で低く、優しく響いた。

 その瞬間、私の心は粉々に砕け散った。

 結婚して十年、彼が私を愛していないとずっと思い込んでいた。彼が欲しかったのは綾辻家の技術だけで、私と結婚したのは純粋にビジネス上の提携のためだと。

 なのに、人生最後の十秒で、彼は私を抱きしめ、共に死ぬことを選んだ。

 00:00:05。

 00:00:04。

 00:00:03。

「空、愛してる……!」

 爆発音が轟く中、十年もの間、怖くて認められなかった真実を私は叫んだ。

 ドォォォンッ!

 そして、全てが暗転した。

 ー

「はあっ……!」

 息を吸い込もうと喘ぎながら、私は勢いよく身を起こした。まるでまだあの炎が肺を焼いているかのように、胸が激しく上下する。

 ここはM市の瓦礫の中じゃない。

 部屋は薔薇の香りに満ち、床まで届く大きな窓から差し込む月光が、シルクのシーツを照らしている。視線を下ろすと、私は純白のレースのウェディングドレスを着ていて、そのスカートがベッドの上に咲き誇る花のように広がっていた。

 鏡に映る女は、信じられないほど若かった。目尻の皺も、疲れ切った表情もない。これは十年前の私――二十二歳の、綾辻穂弥。

 私は、死に戻った。

 二〇一五年、神崎空との結婚式の夜に、戻ってきた。

「穂弥、大丈夫か?悲鳴が聞こえたが」

 ドアの外から、心配と、慎重なためらいが入り混じった神崎空の声がした。

 途端に、涙が頬を伝った。

 その声――私が数えきれないほど冷たくあしらってきた声。ほんの数分前の爆発の中で、私の耳元で「穂弥、君と一緒にいる」と囁いた、この声。

「わ、私は……大丈夫よ、空」

 私は震える声で、かすれながら答えた。

 ドアの向こうは沈黙している。

 彼がまだそこに立っているのがわかった。十年前のあの夜とまったく同じように、私の返事を待って、部屋に入るための口実を待っている。

 前の人生のあの夜、私は彼にこう言ったのだ。

「私に触らないで。これはただのビジネス上の契約よ」と。

 彼の声に含まれた失望を聞き取っていた。

「わかった。客室で寝るよ」

 その瞬間から、私たちの結婚生活は、決して交わることのない二本の平行線のようになった。

 彼は気にしていないのだと思っていた。別々に寝ることに安堵しているのだと。今日まで――あの炎の中で私を抱きしめ、あの言葉を口にするまで――自分がどれほど間違っていたかに気づかなかった。

 なんて馬鹿だったんだろう、私は。

 十年もの間、彼もまた待っていたのかもしれないなんて、考えもしなかった。これがただのビジネス以上のものだという合図を、私がくれるのを。

 今度こそ、私たちの幸せのために戦う。

 私は裸足でドアに向かい、ドアノブに手をかけた。

「神崎空」

 私はそっと呼びかけた。

「うん?」

「ここにいて」

 私は深く息を吸い、ドアを開けた。

「私たちは、結婚したのよ」

 神崎空は廊下に立っていた。白いシャツ姿で、ネクタイは緩められ、袖は肘までまくり上げられている。爆発の前より十年若返った彼は、後年に見られたような疲労の色が瞳から消えていた。

 けれど、その瞳は変わらず、海のように深い。

 彼は呆然と私を見つめ、自分の聞いたことが信じられないという顔をしていた。

「本当に、いいのか?」

 まるで何か壊れやすいものに触れるのを恐れるかのように、彼は囁くような声で尋ねた。

「君に無理強いはしたくない」

 私は涙ながらに微笑んだ。

「空、あなたが私に何かを無理強いすることなんて、絶対にないわ」

 私は彼の手を取った。

「これが、私の望みなの」

 彼の手は温かく、手のひらには硬いタコがあった。テニスでできたものだと、いつか彼が教えてくれたのを思い出す――私にも教えたいと言ってくれた。前の人生では、時間がないと断ってしまった。

 でも今は、世界中の時間がある。

 今度こそ、ちゃんと彼を愛するための十年が、まるごと手に入ったのだ。

 ー

 その夜、私はほとんど一睡もできなかった。

 神崎空は隣に横たわっていたが、私たちの間には見えない深い溝のように、別々の毛布が隔てていた。彼の呼吸は浅い――彼も眠っていないのだとわかった。

 結婚して十年、私たちは一度も本当の意味でベッドを共にしたことはなかった。

 私は横向きになり、彼の横顔を見つめた。月明かりが、彼の鼻筋のシャープなラインをなぞっている。前の人生の私はなんて愚かだったんだろう。こんなにも美しい人だということに、気づきもしなかった。

 今はわかる。けれど、彼はもう私を信用していない。

 翌朝、神崎空は早くに起きた。私は眠っているふりをしながら、まつ毛の隙間から彼が身支度をするのを見ていた。彼は私を起こさないよう、静かに動いていた。

「会社に行ってくる」

 彼はドアの前で立ち止まり、かろうじて聞こえるほどの声で言った。

 返事をしたかったが、何と言えばいいのかわからなかった。ドアが閉まる音を聞いてから、ようやく私は目を開けた。

 何か、行動しなくちゃ。

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私の名前は江川莉奈。

育ての親の一家に家を追い出されたあの日、私は微笑みを浮かべながら、奴らが施しとしてよこした金をゴミ箱へと投げ捨てた。

誰も想像すらできないだろう。この私が、数々の名門貴族や権力者たちが大金を積んで列をなし、首を長くして診察を待つ伝説の名医——【暁】だなんて。

私が時価総額数十億ドルのファッション帝国を裏で支配していることも、ウォール街の株価をたった一回の取引で大暴落させられることも、誰も知らない。私はその正体を、この平凡で冴えない素顔の裏にすべて隠し持っていた。

さらに劇的なことに、私の実の親はこの街で頂点に君臨する最高峰の大富豪だった。

そして私の婚約者——すでに顔を合わせているにもかかわらず、その正体を知らなかったあの男こそ、この街の誰もが名前を聞くだけで震え上がる、ビジネス界の冷酷な死神:梅原晴琉だったのだ。

ある日、彼は私の手を執り、ゆっくりと距離を詰めると、耳元で低く囁いた。

「俺のこの鼓動、今なら感じられるか?」

私は至って真面目な顔で彼の胸に手を当て、大真面目にこう返した。

「心拍数は確かに少し高めですが、非常に健康的です。心配ありませんよ」

彼は一瞬呆気にとられ、それからふっと吹き出した。その瞬間の彼の笑顔に、私の心臓もなぜかドクンと跳ねた。それは、自分自身でも説明のつかない初めての衝動だった。

だが、彼が私の真実に一歩ずつ近づくにつれ……私の心は揺らぎ始めている。自分の最後の秘密を、あとどれくらい隠し通せるのだろうか。

外されるはずのなかった仮面——。だが、あの人が執拗にその霧を剥ぎ取ろうとするとき、私は一体どこへ向かえばいいのだろう?